Trusted Web 採択案件2:学修歴等の本人管理による人材流動の促進

Trusted Web 採択案件2:学修歴等の本人管理による人材流動の促進

2023年4月20日

毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。

当記事で取り上げるのは以下の配信です。

  • 配信日:2022年9月29日
  • タイトル:trusted web 採択案件2:学修歴等の本人管理による人材流動の促進
  • ゲスト:東京大学大学院 情報理工学研究科附属ソーシャルICT研究センター 教授 橋田浩一氏

ゲストにSSI/FIDOコンソーシアムの橋田浩一先生

Trusted Webの要件を備えたプロトタイプシステム(アプリケーション)の企画・開発の実証を支援する「Trusted Webの実現に向けたユースケース実証事業」。こちらの公募を経て採択された13件の1つに、SSI/FIDOコンソーシアムによる「学修歴等の本人管理による人材流動の促進」があります。SSI/FIDOコンソーシアムは、東京大学とヤフー株式会社に所属する有志を中心に構成されています。

同コンソーシアムのメンバーで、本プロジェクトの企画やサービスの開発に携わる、東京大学大学院 情報理工学研究科附属ソーシャルICT研究センター教授の橋田浩一先生が、この日のランチタイムトークに参加してくれました。橋田先生に、開発中のサービスの概要や技術的な特徴、実装や事業化に向けた今後の展望について伺いました。

橋田先生の専門はサービス情報学。分散PDS(Personal Data Store)の一種である、PLR(Personal Life Repository)を提唱しています。

VC、FIDO認証、選択的情報開示などを実現する技術を検討

学生本人が自ら運用管理する学修歴等(Verifiable Credentials)は、対象範囲により「マイクロクレデンシャル」と「マクロクレデンシャル」に大別されます。「マイクロクレデンシャル」は、個々の修得科目(コース)に関する情報(科目名や単位数、評価、修得年度などを想定)。他方「マクロクレデンシャル」は成績証明書や卒業証明書などの包括的な情報を対象にします。

「学修歴等の本人管理による人材流動の促進」プロジェクトが最初のステップで目指すエコシステムで重要な役割を演じるのが、学生に関するマイクロクレデンシャルの発行者(Issuer)である大学等の教育機関、そしてIssuerから発行された検証可能(Verifiable)なマイクロクレデンシャルを自ら運用管理する学生本人、さらに自社にマッチする人材を求める企業(Verifier)です。

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学生は氏名や性別などの個々の情報をVC(Verifiable Credentials)として自ら主体的に管理します。そのウォレットとなるのが前述の、橋田先生が提唱するPLRです。学生本人が生涯にわたり、自身の情報や自己の学びの成果を運用管理するイメージです。

PLRは、利用者個人のデータを暗号化して一般的なクラウドストレージ(Google DriveやDropboxなど)に格納することができます。ただ、グーグルやドロップボックスなどのプラットフォーマーには復号のための鍵を開示しません。個人のデータを利用するには本人の同意が必須であるため情報を本人がコントロールできます。

同時に、スケーラビリティはプラットフォーマーのユーザーに匹敵する数十億人規模が見込まれます。そしてPLRは、さまざまな機能を付加できる柔軟性や拡張性を有していることも特長です。

個人の本人性確認や企業などの法人の存在を裏付ける確認においては、FIDO(First Identity Online、ファイド)を利用します。FIDOは、公開鍵暗号技術に基づく認証技術。パスワード認証ではなく、生体認証を含む多要素認証に対応しています。

「ユーザーは生涯学習をしていく個人、社会人学生なども含めて想定しています。自身の持つVCの中から、人材を求める企業などに開示したい情報を自ら選択してVP(Verifiable Presentation)を生成します。VPをチャネルという共有データの入れ物を介して提示します。このような仕組みにより、Trusted Webの4つの要件である『ユーザ(自然人又は法人)自身が自らに関連するデータをコントロールできる』『検証(verify)できる領域を拡大することにより、Trustの向上を図ることができる』『データのやり取りにおける合意形成の仕組みがある』『合意の履行のトレースができる』を満たすことになります」(橋田先生)

オープンなエコシステムの実現に向けて

従来の人材マッチングにおいては、本人が仲介業者にデータを渡して「こういう企業がおすすめです」という提案や推薦(リコメンド)をもらうのが一般的でした。

一方、PLRを用いた人材マッチングでは、本人が開示したいデータを自らVPを作成して開示し、それに基づいてどのような企業がマッチするかを、任意の「パーソナルAI」(PAI)による助言を得ながら選択するイメージです。

PAIのイメージは、たとえば「生活習慣のデータを用いた学習指導」や「(学修者の)業務のデータを用いた健康管理」など多様なものが想定されます。PAIのアドバイスを得ながら、採用したい企業とのマッチングや、学修者のニーズに合う購買などが実現されれば、学修者本人はもとより、PAIを開発する事業者や求める人材を得た企業などエコシステムの参加者すべてがメリットを得られる、というシナリオです。

「どこか特定の企業だけが儲けるのではなく、(エコシステムに参加する)さまざまな主体にメリットが得られるようなオープンな仕組みを考えています」(橋田先生)

「同時にこうした仕組みの前提として、そもそも学生の成績が客観的に評価されたものとして信頼できるかどうか、この人を採用する根拠にして良いのか、といった評価の保証が不可欠です。このような客観的な基準の策定には、大学等の間での基準づくりが必要です。海外では一部の国で先行する事例もあります。日本でも検討に向けて動き出す段階かなと思います」(橋田先生)

プロジェクトは現在進行形。今後の進展についても橋田先生に伺いたいと思います。

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