毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。
- 配信日:2024年11月7日
- タイトル:個人情報保護法のいわゆる3年ごと見直しに関する検討会 第4回
- 白熱した議論と課徴金制度について
- スピーカー:DataSign(データサイン) 代表取締役社長 太田祐一
課徴金制度に不安を募らせる事業者も
【清水座長】 (前略)本日の議事の大きな流れとしましては、議事2「現行制度と検討の方向性」において、まずは団体訴訟制度について、全国消費生活相談員協会より、適格消費者団体における差止請求事案に係る現状について御紹介いただき、その後、質疑及び意見交換を行いたいと思います。(中略)
【日本IT団体連盟】 座長、その前に、特に産業界にとって重要なことですので、最初に前回配付された資料の訂正について確認させていただきたいです(中略)
【清水座長】 事務局としましてはいかがでしょうか。(中略)これに関しては多分いろいろ御質問等もあると思うのですけれども、まずはこちらの想定しておりました順序で進めさせていただけないでしょうか。御準備もお願いしているわけですので。
【日本IT団体連盟】 (中略)準備をしているものをとりあえずこなすことを優先にして議論の中身はいい加減にしてもいいというのが座長のお考えですか。
緊張感あふれるこのやりとりは、2024年10月11日に開催された「第4回 個人情報保護法のいわゆる3年ごと見直しに関する検討会」でのワンシーンです。
利得を返金すればセーフなの?
同検討会では個人情報保護法の3年ごと見直し規定に基づいて、主に「個人の権利利益のより実質的な保護の在り方」「実効性のある監視・監督の在り方」「データの利活用に向けた取組に対する支援等の在り方」など事項を検討しています。この日の議事は、「現行制度と検討の方向性」でした。
出席者は、宍戸常寿 東京大学大学院法学政治学研究科教授をはじめとする構成員7名と、関係団体として主婦連合会、新経済連盟、全国消費者団体連絡会、全国消費生活相談員協会、日本IT団体連盟、日本経済団体連合会の6団体、および個人情報保護委員会です。
やりとりで出てくる「前回配付された資料」とは、2024年9月26日に開催された第3回検討会で開示された資料2「個人情報保護法の違反行為に係る事例等」のことで、その訂正とは資料に掲載された「類型1 人材サービス事業者及びその関連事業者 いわゆる内定辞退率を提供するサービス」の記載に関するものです。
内定辞退率を提供するサービスとは「採用活動に応募した学生等の情報と会員情報を突合し、就職情報サービス上の学生等の閲覧履歴等を基に内定を辞退する確率を算出して提供する」もので、この事件では就職活動をする本人の同意を得ずに内定辞退率を、サービスの利用企業へ提供していました。
資料2には、このサービスで企業間に金銭の授受があったと報じられたことが記されています。それに対して冒頭の発言者は、企業が事件後に利得分を返金したのであればその旨を記すなど「きちんとした訂正をするなり、類型1を全部削除するなり」してほしい、「産業界側としては、その不安を解消できるかどうかという1点につながっている」と主張しています。
事業者と消費者の相互理解に向けて
資料2を含むこの議論の前提には、個人情報保護法において課徴金制度を導入するかどうかの論点があります。
「現行の個人情報保護法(令和2年改正法)では、個人の権利利益の保護に不可欠な監視・監督の実効性が諸外国に比べて物足りないことはかねがね指摘されています」(データサイン 代表取締役社長 太田祐一)
前述の類型1において、氏名の代わりにCookieで突合して内定辞退率を算出・提供していたサービス事業者への行政上の対応は「勧告」、同サービスを利用していた企業は「指導」に留まりました。欧米などの規制に比べると緩く、これでは個人情報保護法を軽視する風潮が強まりかねません。
一方、厳しい課徴金制度を導入すれば産業界におけるデータの利活用の萎縮を招き、イノベーションなどが阻害されると不安視する事業者側の意見もあります。
議事録には、森構成員による次の発言が残されています。
皆様、声を上げられない事業者を代表して事業者団体として声を上げられているかもしれませんけれども、消費者は消費者で全く声を上げられていなくて、さらに言えば自分がどう扱われているかも分からない。なので、採用企業にもしかしたら内定辞退率をばらされたかもしれない就活生のレピュテーションにも少し気持ちを致していただいて、双方シンパシーを持って議論を進められればいいなと思います。
過去の検討会の議事録は公開されています。今後の検討会をオンラインで傍聴する申し込みなど、詳しくは個人情報保護委員会のサイトをご覧ください。