毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。

  • 配信日:2024年3月7日
  • タイトル:DMAをめぐるAppleとSpotifyの攻防
  • メインスピーカー:データサイン 代表取締役社長 太田祐一
  • MC:ビジネスディベロッパー 宮崎洋史

音楽ストリーミングアプリを巡る因縁の対決

2024年3月4日、欧州委員会(European Commission)は、アップルに対してApp Storeでの音楽ストリーミング配信サービスに関する市場独占的な商行為を改めるよう約18億ユーロ(約3000億円)の制裁金を課したことを発表しました。アップルはこれに上訴を表明しています。

背景にはアップルと、欧州向けにデジタル音楽配信サービス「Spotify」を提供するSpotify AB(以下、スポティファイ)の攻防があります。

2008年10月にSpotifyがサービス開始され、iPhoneアプリとしても人気を博しました。一方、アップルは2011年2月にアプリ内課金(IAP:In-App Purchase)をサービスの提供者(開発者)に義務化します。スポティファイは、アップルがSpotifyからの売上高の30%を徴収すること、IAP以外の決済手段を認めないことを不服とし、すぐ応じませんでした。2014年1月にようやく合意に達し、Spotifyの利用料も値上げしました(月額9.99ユーロから12.99ユーロへ)。

「するとアップルが2015年6月に音楽配信サービスApple Musicを開始しました。利用料は月額9.99ユーロです。値上げする前のSpotify利用料と同額でした。おそらくこれにスポティファイもカチンと来たのでしょう。2016年、アプリからの有料申込みを停止し、ウェブ経由のみに変更しました。さらに2019年3月、欧州委員会にアップルを提訴しました」(データサイン 代表取締役社長 太田祐一)

アップルのDMA対応は茶番であると批判

さて2020年12月、欧州委員会から欧州議会にデジタル市場法(DMA:Digital Markets Act)の法案が提案されます。同法は欧州のデジタル市場をより公正かつ競争力のあるものにするために「ゲートキーパー」として機能するプラットフォームに一定のルールを課すものです。

また、2021年4月、欧州委員会は、スポティファイの申告を受けてアップルに、独占的な立場を利用した音楽配信サービスや、IAPの強制に関する回答を求めた異議告知書を送付したことを発表。

2024年1月、アップルはDMAで指定されたゲートキーパーとして同法に対応するための新ルールを公表しました。

「これに対してスポティファイは、アップルのDMAに対する新ルールは茶番である、という批判を自社サイトのニュースルームに翌日公開しました。そして2024年3月、冒頭述べた欧州委員会からの制裁金がアップルに課されます」(太田)

双方に譲る気なし

スポティファイは、アップルがIAP以外の他決済手段も認めたものの依然として17%の手数料を徴収していること、そのうえ新たにコアテクノロジー手数料として1インストールごとに0.5セントユーロを徴収すること、そのコアテクノロジー手数料を1ユーロや10ユーロにいきなり値上げすることを防ぐ仕組みや罰則がDMAに存在しないことなどを批判しています。

他方、アップルの主張は、欧州においてSpotifyは最大規模の市場シェアを獲得しており、消費者が実際に何らかの被害を受けたという証拠はなく、また音楽ストリーミング市場も活況でアップルが競争を阻害している証拠もないことなどを列挙しています。むしろSpotifyはアップルが提供するプラットフォームを使用しながら何も支払っていない、自分の都合のよいようにルールを曲げようとしていると、双方譲る気配はありません。

「アップルとスポティファイの言い分にはどちらも一理あります。特に私企業であるアップルが利潤を追求することはとやかくいえません。とはいえApp Storeなどのプラットフォームは今日もはや公共財ともいうべき性質を帯びています。そこから吸い上げられる莫大な収益と公共性のバランスをどう取るか、どのように社会に還元するのかがDMAを巡る論点の1つです。難しい問題ですが日本市場でも同様の議論は避けられないでしょう」(太田)