毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。
- 配信日:2025年2月20日
- タイトル:米国副大統領バンスの発言を憲法学者 山本龍彦氏の「アテンションエコノミーのジレンマ」で斬ってみる
- スピーカー:DataSign(データサイン) ビジネスディベロッパー 宮崎洋史、代表取締役社長 太田祐一
欧米の信頼関係に軋み
空気のように当たり前と思われがちな言論の自由と民主主義が、浸透するデジタル社会のなかで揺らいでいます。この日のランチタイムトークでは関連するニュースと書籍を話題に取り上げました。
まずは、物議を醸したバンス米副大統領の発言から。2025年2月15日の日本経済新聞の記事によると、欧州を訪問していたバンス副大統領は偽情報を取り締まる欧州連合(EU)のSNS規制を「検閲」「民主主義の破壊」などと厳しい言葉で批判しました。
2024年12月6日にやり直しが決まったルーマニア大統領選挙の背景には、動画投稿アプリTikTokを通じたロシアの選挙介入があったことが指摘されています。これについてバンス副大統領は「外国からの10万ドル(約1500万円)のデジタル広告で民主主義が破壊されるのであれば、それはもともと強固なものでなかったということだ」と断じた、そのように日経記事は報じています。大手テック企業によるSNS上の偽情報対策を批判してきたトランプ米大統領と重なる副大統領の発言は、欧米間の信頼関係を揺さぶっています。
自由意志で選択しているつもりが実は
もう1つ取り上げたのは、憲法学者である山本龍彦氏の著書「アテンション・エコノミーのジレンマ」です。慶應義塾大学法科大学院教授の山本氏は、MyDataJapanの年次イベントにも登壇しています(MyDataJapan 2025は7月17日に開催予定です)。本書では8人の有識者と山本氏が対談しています。
情報が過剰な世界では、私たちが払う注意関心(アテンション)に希少性が生じ、経済的価値を生み出します。そこに着目した経済圏がアテンションエコノミーです。SNSなどを提供するプラットフォーマーはユーザーの注意や関心が向きそうな情報や広告を配信します。そして、消費者のアテンションを広告主に販売するビジネスも成立しています。そのようなアテンションエコノミーには光と影があります。
人々がアテンションを向けるものとして本書に例示されるのが、怒りや憎悪などの感情を煽るもの、それらを含む誹謗中傷や偽誤情報などです。
「『自分でこの情報を選んでいる』つもりでも、同じような情報に囲まれているうちに偏った情報をいつしか信じ込んでいるリスクは小さくありません。本書ではいくつかの実験を通じて、私たち人間の認知能力は案外騙されやすく、自由意志で行動していると思い込んでいても、実は誰かにコントロールされていることが例証されています」(データサイン ビジネスディベロッパー 宮崎洋史)
コントロールに対抗する「免疫」
このようなコントロールから私たちが免れる方法はあるのでしょうか。いまのところ決定打はなさそうですが、対抗することができる可能性が本書には示唆されています。そのひとつが、心理学的な予防接種を受けて免疫をつけるアプローチです。
「消費者側がコントロールする側の型(パターン)を理解して『これはあやしいな』と気づく免疫を付けるには、SNSなどを遮断するのではなく、あえてそこに身を置くことも大切です」(宮崎)
感染症に対するワクチンと同様に、ワクチンの接種で重い副反応にかかる確率はゼロではありません。でも受けなければ罹患したときに重症化するリスクも高まります。
「たとえばゲーミフィケーションの要素を取り入れて、楽しみながら疑似的に危険性を体験できるオンラインゲームなどからはじめるのが、コントロールする側の手口に慣れるにはよい方法かもしれません。私たちが当たり前と思っている言論の自由や民主主義は、努力なしに手に入れられる所与のものではなさそうです」(宮崎)