毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。
当記事で取り上げるのは以下の配信です。
- 配信日:2021年8月12日
- タイトル: Criteo社によるFLoCオリジントライアル結果報告
- 発表者:データサイン代表取締役社長 太田祐一
1カ月半にわたりFLoCオリジントライアルに参加
フランスに本社を置き、グローバルに事業を展開する大手広告配信業者のクリテオ社。広告主やパブリッシャーをクライアントとするリターゲティング広告サービスを提供しています。同社はグーグルが提案し、W3Cで仕様策定中のプライバシーサンドボックスに含まれる機能の1つ、FLoCのオリジントライアルに参加したそうです。その結果をMediumのブログ記事で公表しています(FLoC Origin Trial: What We Observed とHow Do FLoC Cohorts Behave?)。投稿された記事を読んだデータサイン代表取締役社長 太田祐一が話題に取り上げました。
FLoC(Federated Learning of Cohorts)は、既存のサードパーティーCookieによるターゲティング広告を代替する機能です。フェデレーテッド・ラーニング(FL:連合学習などと訳されます)により、ブラウザをコホート(ブラウザの行動履歴から興味・関心が類似するユーザーをまとめた群)に分類し、あるコホートに対して広告を表示することができます。ユーザーの行動履歴を広告配信システム側のサーバーに渡すことはありません。ただ、オリジントライアルではこのFLは用いられていない、とクリテオ社のブログ記事にあるように、擬似的な環境でテストが行われています。
クリテオ社が参加した期間は記事によると2021年6月1日から7月13日のほぼ1カ月半。ブラウザから提供される、ユーザーのブラウザがどのクラスタに属しているかを示すFLoCのコホートID(floc_id)と、そのIDを算出するために使用されたアルゴリズムのラベル(floc_version)情報を収集しました。情報収集経路としてJavaScriptのタグが埋め込まれた16,000以上の広告主のウェブサイト、2,000以上のパブリッシャーのウェブサイトが対象になりました。
マーケターが費用対効果を高められるかは疑問
クリテオ社の記事には、次のような論点が公表されています。
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FLoCコホートを生成するブラウザは、Google Chrome以外にもある
Yandexブラウザは主にロシアからアクセスされるもので、floc_idで記録された情報の88%を占めた。ただし、Yandex ブラウザのfloc_versionは「chrome1.0」であり、FLoCアルゴリズムが動作する「chrome2.1」ではない。そのため、Yandexブラウザを除外した残り12%に対して調査を実施した。 -
オリジントライアルの対象は非常に少ない(Chromeユーザーの0.02%)
グーグルは 「0.5%」という数字を挙げていたが大幅に下回る。また、主にベータ版や開発版のChromeで実行されており、グローバルに見たChromeトラフィックを代表するものではない。 -
33,000以上のFLoCコホートを観測したが、これらのコホート内のユーザー数は非常に少ない
各FLoCコホートにフラグが立てられた個別のChromeユーザーの1日あたりの平均数はわずか1.4人だった。少なすぎて有益な結論を得ることは難しい。 - FLoCのコホートは平均して7日に1回、再計算されている
- 7日後に同じコホートに入っているChromeユーザーは12%である
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FLoC ID間の「近接性」パターンは観察されなかった
近接性というのは隣接するIDが類似した興味を持つユーザーのまとまりではないか、という仮説である。しかしクリテオ社が調べたところ近接性は観察されず、ユーザーの行動をFLoCから導き出すことはできなかった。同じコホートIDを付与される期間が長くないことを考慮すると、FLoCは有益なオーディエンスの興味セグメントを生成しているとはいえない。言い方を変えると、マーケターがメディアの費用対効果を高めるためにどのコホートを購入すればよいのかを判断して選択できるのかは疑問だ。
W3Cにおける標準化はどうなる?
「サードパーティーCookieの廃止が2023年末に延期になりました。その要因としてグーグルが提案するFLoCやFLEDGE(フレッジ)の実装に向けた検証を含む、W3Cにおける標準化の取り組みがあまり順調ではない状況が挙げられます」(太田)
その可能性は、クリテオのブログ投稿記事からもうかがえるでしょう。
ユーザーのプライバシーに配慮したプライバシーサンドボックス。その取り組み自体はユーザーの視点に立っている点では評価できるものです。ただ、その仕組みが広告主やパブリッシャーなどで構成されるデジタル広告業界に有益だと評価されるのか。オリジントライアルはあくまでテストですが、今後の実装に向けた標準化の動向には引き続き注意が必要といえそうです。