毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。

当記事で取り上げるのは以下の配信です。

  • 配信日:2021年10月21日
  • タイトル: Criteo社によるFLoCオリジントライアル結果報告 第4回
  • 発表者:データサイン 代表取締役社長 太田祐一

クリテオ社が疑問視するグーグル論文の成果

W3Cで標準化が進められるプライバシーサンドボックス。そのオーディエンスターゲティングに関する技術、FLoC(Federated Learning of Cohorts)の公開トライアルに参加したフランスに拠点を置く大手広告配信業者クリテオ社がその結果をMediumブログに連載しています。そちらの連載4回目(FLoC Origin Trial: Questions and Perspectives)の内容をデータサイン代表取締役社長 太田祐一が解説しました。

クリテオ社のブログ記事によると、クリテオ社が行うサードパーティーCookieを使ったターゲティング広告と比較してFLoCのパフォーマンスを明確に証明することができず、マーケターのニーズやユースケースに応えられるかどうかは不明であると結論づけています。FLoCに対する同社の評価は芳しくありません。

同社が槍玉に挙げるのが、グーグルが2021年8月に発表した論文「Clustering for Private Interest-based Advertising」です。こちらの論文では、匿名化されたユーザーの情報をグループ化する各種クラスタリング手法の優劣を比較しています。比較ポイントの1つは、閲覧したパブリッシャー(例えばニューヨークタイムズなどのメディア)のウェブサイトのカテゴリーがよく似たユーザー(コサイン類似度の高いユーザー)を1つのコホートにどれだけ多くまとめられるか、です(少ないとk-匿名化した個人が推定されるリスクが高いため)。

もう1つのポイントは当該コホートのユーザーが興味を持つと考えられるカテゴリーのサイトで、どれだけコンバージョンが得られるか、です。グーグル論文では1000ユーザーからなるコホートにおいて、よく閲覧されるトップ10パブリッシャーのカテゴリーに基づいてコホートを特徴づけたのち、FLoCオリジントライアルで用いられている分散処理型のSimHashアルゴリズムを適用したところ、Cookieを利用して個人の興味・関心に関する情報を集める広告手法の55%に相当する成績が得られ、ランダムにユーザーをグループ化したコホートと比較すると4倍の成果が得られた、と報告しています。

閲覧したパブリッシャーのドメインではコホートは特徴付けられない!?

上述したグーグル論文の成果についてクリテオ社は、カテゴリー分けをするならばユーザーが閲覧したパブリッシャーのサイトの閲覧頻度ではなく、購入意欲のある商品を示した広告主サイトの閲覧履歴や商品購入などのコンバージョンに基づくべきである、と述べます。

「たしかにニュースサイトや天気サイトなどよく見られるパブリッシャーのドメイン(eTLD+1)の履歴のみでは、例えば『このユーザーは靴好きである』という詳細な興味・関心を見極めることは難しくなります」(太田)

また、カテゴリー分けについても10ものカテゴリーでコホートを特徴づけるのは広すぎてマーケターがオーディエンスを構築することができない、と苦言を呈します。マーケターの立場では広告におけるROIを高める上で、より少ないカテゴリーで特徴づけられたコホートに的を絞って資金を投じたいからです。

そこでクリテオ社はユーザーが閲覧した広告主のカテゴリー(花/ギフト/お菓子からオンラインゲームまで約100種類)に重み付けをして同様の分析を行いました。10以下のカテゴリーでFLoCとCookieベースのターゲティングで相対比較したところ、トップ10カテゴリーでは大差なかったものの(-6.9%)、カテゴリーを絞るに連れてその差は広がり、トップ1カテゴリーだけの場合はFLoCにおけるコンバージョン率は大幅に低下してCookieベースとの差が拡大(-45.1%)しました。これによりクリテオ社のブログ記事は、コホートがユーザーの興味を表すというグーグルの主張に疑問を投げかけています。

プライバシーの懸念と広告主やアドテク事業者のメリットは?

クリテオ社はユーザーのプライバシー保護についても、フィンガープリンティングやクロスサイトトラッキング・ツールに用いられるリスクなどを懸念しています。

「ただ、サードパーティーCookieの利用もユーザーにとってプライバシーインパクトは高いので、それを棚に上げてFLoCを批判するのはどうかな、と思います。とはいえクロスサイト・トラッキングに用いられるリスクはGithubのあるissueでも指摘されています。『閲覧するサイトごとに異なるコホートIDをブラウザに付与すればよい』という提案もありますがそうするとマーケティングにおけるコホートIDの価値低下が懸念されます」(太田)

また、ある自動車メーカーのサイトに訪れたユーザーの閲覧履歴情報がライバル自動車メーカーに知られてしまうリスクはFLoCにもサードパーティーCookieにもあります。サードパーティーCookieはアドテク事業者との取り決めで相手先に知られないようにすることが可能ですが、FLoCはそれを担保する仕組みが明示されていません。

クリテオ社のブログ記事ではFLoCは最終製品としては不十分であるものの、グーグルが市場に対して公開テストを促し、フィードバックする機会を提供していることについては一定の評価を下しています。2022年の第1四半期には、グーグルからリターゲティング広告に関する技術「FLEDGE」(フレッジ)に関するテストが行われる見通しです。こちらの動向にも注目です。