毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。

  • 配信日:2020年6月11日 
  • タイトル: ダークパターンとは何か
  • 発表者:データサイン プロダクトマネージャー 坂本 一仁 

Webサイトのユーザーに意図しない選択を強制するUX/UIデザインパターン

オンラインサービスの提供側に利益をもたらすことを目的として、ユーザーが無意識に、自身に不利な決定を下すような誘導をするUX/UIデザインの総称、それがダークパターンです。企業はユーザーに対してダーク・パターンを提供しないために、他方、利用者はその手に乗らないために、どう留意すればよいのでしょうか。データサイン プロダクトマネージャーの坂本一仁が解説しました。

解説にあたって坂本が紹介したのは、「Dark Patterns: Past, Present, and Future」(ダークパターンの過去、現在、未来)と題する記事です。こちらはコンピューターサイエンス系最大級の学会であるACM学会の雑誌に掲載された記事で、著者の1人にオンラインプライバシー研究の第一人者であるArvind Narayanan氏が名を連ねています。ネット上にて無償で閲覧できます。

「記事によるとダークパターンの源流は、小売での商習慣、行動経済学や行動学分野におけるナッジ(nudge)、グロースハッキング(growth hacking)の3つとしています」(坂本)

記事にはそれぞれ例示があります。例えば、小売での商習慣でよく知られる「999ドル」(日本だと198円、1980円など)のようにあえて金額を切り上げずに表示する心理的価格設定をはじめ、消費者に残り時間が少ないことを知らせて行動を急かす「閉店(改装)セール」やECサイトにおけるカウントダウンタイマー、ショッピングカートに購入予定にはないオプションサービスがいつの間にかたくさん自動追加されるセールス手法、安値で客寄せするおとり広告などが挙げられています。

また、ナッジは本来、利用者にとって合理的で良い行動を取らせるための後押し(肘でそっと押す)の研究ですが、行き過ぎると「あなたのようにこのページを見ている○○人がすでに予約(購入)済みで、在庫はあとわずか△△のみです」と焦らせたり、同調圧力をかけたりするメッセージ表示は、GDPRで掲げられた「自由に与えられるべき同意」を阻害するダークパターンとみなされる可能性があることが複数の論文で指摘されています。

そして、グロースハッキングは、いち早く市場シェアをとる目的で、ユーザーのつながりを利用して「バズらせる」などバイラルに巻き込む手法です。記事では、UIデザインにおけるA/Bテストを繰り返してユーザーのクリック率を巧みに高めるUI選定手法や、ユーザーの友達つながりを用いて広告を拡散させる例が示されています。

ただ、「ダーク」と「ダークでないもの」の線引きは曖昧に見えます。上述の3つの例にしてもすべてが倫理的に良くないものであったり、法律に背いているわけではありません(あおり広告は明らかに不当表示です)。

「さらにダークパターンのやっかいなところは、サービス提供者が故意ではなく、無意識のうちにそれをしている可能性が高いことです。プロダクトをよくしたい、売り上げを伸ばしたい、滞在時間やアプリ使用時間を延ばしたい、そういう心理がある一線を超えたときダークパターンに陥っているかもしれません」と坂本は指摘します。

「その商品やサービスがユーザーにとって本当に最適か、さらにサービス提供者、またはそのUX/UIを作るデザイナーは、それがユーザーのためになっているかを一歩引いて考えることが重要です」(坂本)。そのためにクリック率やコンバージョン率ではない、異なる指標で判断することの重要性を提案しました。

同意管理プラットフォーム(CMP)にもダークパターンが存在

ダークパターンの問題は、CMP(同意管理プラットフォーム)においても指摘されています。

ほとんどのCMPのUIは「Cookieをすべて許可」ボタンのみが目立つようにハイライトされています。

「例えば、初期状態ではすべてのチェックボックスが空欄でも、その下にすべてのボックスを全選択して確認する『すべて許可』ボタンが配置されています。ある調査では、『すべて許可』ボタンをハイライトしたものは、ハイライトなしボタンと比較して4倍多くクリックされたという結果が報告されています。なおかつ同調査では必ずしも利用者が納得したうえで選択しているものではない、と示唆しています」(坂本)

CMPにおけるダークパターンによる選択の誘導が、GDPRが提唱する「自由に与えられた同意」にどのように影響するかは議論の最中とはいえ、レピュテーションリスクに配慮し、利用者が正しく理解した上で、公平に選択できるCMPの普及が望まれます。

10年後を見据えてユーザーの便益を真に考えたUX/UIデザインを目指すべき

前出の記事は、サービスを提供するUX/UIデザイナーおよび、デザイナーが所属する企業など組織における対応に力点が置かれています。一方、UIに触れる利用者はどのようなことに気をつけると良いのでしょうか。

「オンライン上で自分に向かってくる情報は、すべてパーソナライズされている、と思った方がよいでしょう。そのうえで、それらの情報やモノが自分にとって本当に必要か、または信頼できるか、冷静になって考えてみることが大切です」(坂本)

本記事では、目先の利益に囚われるとダークパターンに陥り、中長期的には利用者の「信頼」を失う可能性があることが訴求されています。「10年先を見据え、企業はユーザーの便益を真に考えたUX/UIデザインを目指すべきです」(坂本)

利用者の信頼を得ているUX/UIデザインかどうか。組織としてオープンに検討し、改善し続けることが、ユーザーとの間に信頼関係を築くはずです。