毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。

  • 配信日:2024年5月30日
  • タイトル:デジタル・ニッポン 2024
  • メインスピーカー:データサイン 代表取締役社長 太田祐一
  • MC:ビジネスディベロッパー 宮崎洋史

自民党デジタル社会推進本部が策定した提言

自民党デジタル社会推進本部(本部長:平井卓也衆院議員)は「デジタル・ニッポン2024」と題した提言を取りまとめ、2024年5月23日、岸田文雄総理大臣に提出しました。デジタル・ニッポンは、政府のデジタル政策の方向性を示すため同本部が毎年策定しているものです。今回のテーマは「データ戦略」。こちらの話題をランチタイムトークで取り上げました。

日本では2016年12月に議員立法で制定された「官民データ活用推進基本法」および、具体的な取り組みの方針を示した2021年6月策定の「包括的データ戦略」といった、政府レベルのデータ戦略が推進されてきました。しかし、コロナ禍や令和6年能登半島地震への対応において、国・地方自治体間の情報共有不足、データの利活用の取り組みが万全に機能しない、といったインフラ整備やデータ利活用の課題が浮き彫りになりました。

これらの原因について本提言では、日本社会全体のデジタル化の取り組みの中で、データ戦略の重要性とその役割が曖昧であること、技術やサービスの急速な進展に戦略が追いついていない点などが指摘されています。

インフラ整備と個人情報保護制度に関する提案

こうした課題を克服する新たなデータ戦略として本提言では、制度ベースの戦略プロセスと技術ベースの戦略プロセスを相互に関連させて、新たな価値を創造していく「プロセス指向のデータ戦略」の構築を掲げています(詳細は自民党のウェブサイトに公開されている本文をご覧ください)。

併せて「データの利活用の妨げとなっている個人情報保護法の改革が急務」と言及し、個人情報の保護と利活用の両立を実現する抜本的な制度の見直しを要望しています。

「デジタル・ニッポン2024」は9つの章および、提言に関わった6つのプロジェクトチームの提言書などから構成されています。この日のランチタイムトークでは主に「インフラ整備の進展と課題」(第4章)と「データ利活用を支える個人情報保護制度に向けて」(第6章)の気になる点に注目しました。

データ主体である個人の視点が不可欠

第4章「インフラ整備の進展と課題」では、身分証明や職歴などの属性をデジタル化して検証可能な形で提供するVC(Verifiable Credential)や、中央集権的なレジストリを必要とせずユーザーが自身の情報をコントロールする分散型ID(DID)を活用した、「分散型デジタルアイデンティティ」の国際標準化、DIW(Digital Identity Wallet)などへの言及があります。VC/DIDの社会実装を促すために関係省庁が連携して取り組むべきとの提案もあります。

「第4章では、公的機関などで登録・公開される社会の基盤となるデータベース、いわゆるベース・レジストリの整備に関して、民間企業に対する登記情報APIの開放に関する提案が記されています。このAPIですが、もし電子署名で用いる法人の公開鍵が利用できれば、公開鍵の作成元のなりすまし防止につながり、公開鍵基盤の信頼性向上につながるのではないかと期待しています」(データサイン 代表取締役社長 太田祐一)

第6章「データ利活用を支える個人情報保護制度に向けて」では、複雑化する個人データの定義やデータの第三者提供における本人同意原則の見直し、また令和2年改正個人情報保護法の「三年ごとの見直し」の見直しなどを訴えています。

「全体を通じて気になったのは、主に企業側の立ち位置で論じられていることです。課題には共感する部分がありますが、同意疲れなどの解決の方向性についてはデータ主体である個人の権利や視点も加えて論じることが重要だと考えます」(太田)