毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。

  • 配信日:2024年5月16日
  • タイトル:総務省の偽・誤情報に関する検討会
  • メインスピーカー:データサイン 代表取締役社長 太田祐一
  • MC:ビジネスディベロッパー 宮崎洋史

偽誤情報を信用して詐欺の被害者に

著名人の氏名や写真を悪用した偽のSNS広告やウェブ記事に釣られて投資詐欺などの被害に遭う事件が多発しています。発信されている情報は事実の裏付けや科学的な根拠に基づくのか。そして、自身の知らないところで氏名や写真を含む個人情報が犯罪者などに悪用されていないか--。巧妙な偽(にせ)情報と誤(ご)情報の拡散を抑える対策が急務となっています。

総務省「デジタル空間における情報流通の健全性確保の在り方に関する検討会」(座長:宍戸常寿 東京大学大学院法学政治学研究科 教授)では、参加する有識者の議論やプラットフォーム事業者に対するヒアリング内容を踏まえた、偽誤情報の対策に関する意見をとりまとめているところです(公表は2024年7月以降の予定)。

この検討会のオブザーバーとして参加する一般社団法人MyDataJapan(マイデータジャパン)は、2024年5月15日に開催された第19回検討会で、対策についての提言を行いました。

影響や被害を受けやすい人に偽誤情報が集中する理由とは

マイデータジャパンは「パーソナルデータに対する人間中心で倫理的なアプローチにより、公正で、持続可能で、多様なウェルビーイングを実現できるデジタル社会」をビジョンに掲げる、多様な領域の専門家や組織から構成されるシビル・ソサエティ(Civil society)です。

同団体の常務理事を務める、データサインの代表取締役社長 太田祐一は、「偽誤情報の影響や被害を受けやすい人に、偽誤情報がさらに集中する傾向にある」と指摘します。

SNSなどのメディア上の偽広告やヘイト記事に表示されるリンクをたどった閲覧者が到着するランディングページ(LP)などから、それを作成した広告主や広告代理店などの事業者、さらに広告仲介業や情報伝送の側面を持つプラットフォーマーに、閲覧者のパーソナルデータが流通していきます。

この過程で偽誤情報に反応しやすいユーザーをあぶり出し、セグメント化します。あるコンテンツを閲覧した人には、同様のコンテンツや広告を表示することができます。この状況はフィルターバブルと呼ばれますが、影響や被害を受けやすい人への偽誤情報の集中が生じる理由になっています。

「どこで誰が自分のパーソナルデータを収集しており、何に利用されているか、どのようなリスクがあるのか、それらが分からない状況を改善する必要があります」(太田)

ユーザーのリテラシー向上が必須

マイデータジャパンではこうした問題に対して、「個人の権利強化」と「個人の発信者に対する対応」を提案しています。

前者の「個人の権利強化」については、ユーザーが行う意思決定への介入もプライバシーの侵害であると捉え、個人の権利を確保するとともに、効果的な権利行使の手段を提供すべき、と主張しています。

その権利行使手段としては、広告やレコメンデーションに使われるデータを収集する際には、情報を取得するタッチポイントにおいて、誰が何の目的で収集し、どのようなリスクを伴うのかを分かりやすく生活者に対し通知し、取得の拒否などのコントローラビリティを確保することを義務付けること。また、社会問題・政治に関する広告や投稿に関しては、そのターゲティングやレコメンデーションシステムで用いることのできるパーソナルデータを制限することを提案しています。

次に後者の「個人の発信者に対する対応」については、広告クリエイティブや投稿内容だけでなく、そのランディングページやリンク先において「個人の権利強化」で述べた対応を行なっているかどうかも審査対象とする(異議申し立て制度も設ける)ことや、個人としての発信者の信頼性を検証できる技術開発の促進を提案しています。

「個人のエンパワーメントという観点では、SNSなどを利用するユーザーのリテラシー向上も重要です。正確な情報よりもクリックを稼げるコンテンツが優位に立つアテンションエコノミーや、フィルターバブルといったインターネット上の情報流通の仕組みやビジネスモデルに関する知識を『デジタル・シティズンシップ』として全世代が学べるようにしていくべきと提案しています」(太田)