デジタル広告市場の競争評価 最終報告

デジタル広告市場の競争評価 最終報告

2021年7月14日

毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。

当記事で取り上げるのは以下の配信です。

  • 配信日:2021年5月20日
  • タイトル:デジタル広告市場の競争評価 最終報告
  • 発表者:データサイン ビジネスデベロップメント担当 宮崎洋史

パーソナルデータに関する課題を重視

2021年4月27日、「デジタル広告市場の競争評価」の最終報告が公表されました。とりまとめたのは、政府のデジタル市場競争会議(議長は内閣官房長官)です。こちらの最終報告の概要版を中心に、データサイン ビジネスデベロップメント担当 宮崎洋史が気になるポイントを取り上げました。

「デジタル広告市場の競争評価」は2020年6月、中間報告が発表済みです。2020年7月9日配信のデータサイン ランチタイムトークでも中間報告の論点を取り上げました。

「最終報告までに5回の会議と22回に及ぶワーキンググループが開催されたそうです。そこで行われたグーグル、フェイスブック、ヤフーなどのメガプラットフォーマーやアドテク産業の事業者からヒアリング内容が盛り込まれています」(宮崎)。ほかにも公正取引委員会、消費者庁のアンケート調査結果なども加味されて最終報告はまとめられました。

国内のネット広告市場の規模は約2.2兆円に達します。これは日本の広告費全体の36%を占め、2019年以降テレビ広告のシェアを上回り拡大し続けています。ただし巨大プラットフォーマーの寡占化によってネット広告をめぐる取引の公正性や透明性が課題となっています。

最終報告では「透明性(質、価格/取引内容、指標の測定)」「デフォルト検索エンジン」「ウォールドガーデン」「利益相反」「アクセス制限」「ルール変更・取引拒絶」など10の課題が挙げられています。そのうち最終報告の中で最も多く紙幅が割かれているのが「パーソナルデータ」に関する課題です。

中間報告で気になるポイントは結局どうなった?

パーソナルデータをめぐる課題に関連して、最終報告書でも消費者の認知限界についてたびたび取り上げられています。最終報告189ページの注釈には、消費者が、事業者によるパーソナルデータの取得・利用を完全に認識・コントロールすることは困難である、と記されていますが、これは認知限界に起因します。

「2020年8月20日配信のランチタイムトークでご紹介したように、人が一年間に訪問するサイトのプライバシーノーティスを真面目に読めば約200時間、1カ月の労働に匹敵するほどの時間を要する、という調査結果がありました。このように一般消費者がプライバシーポリシーの内容を正確に理解して同意するかどうか判断する、というのは現実的に困難です。この認知限界に対して最終報告に示されているのは、共同規制です」(宮崎)

共同規制とは、政府が法律で強く規制するのではなく、あくまで方向性を示すに止め、当事者が参加する業界団体が自主的に具体的な対策を決めて、お互いそれに沿って行動する、という枠組みです。

「最終報告における問題解決のアプローチは大きく2つあり、1つが法律による規制です。もう1つが事業者によるイノベーションによって課題解決を促す、というものです。認知限界については後者のアプローチが示されています」(宮崎)

たとえばデジタル広告市場に関わる事業者が多数参加するJIAA(一般社団法人 日本インタラクティブ広告協会)が認定個人情報保護団体となって業界ガイドラインを策定するなど、プラットフォーム事業者をはじめとする業界関係者を広く巻き込みながら主導的役割を果たし、具体的な取り組みを促すイメージかもしれません。

中間報告で気になった2点目が、データポータリビリティについてです。データポータビリティはユーザーの判断で自らのパーソナルデータをある事業者から別の事業者に移転(引っ越し)できる権利の実装です。特定事業者によるパーソナルデータの独占を抑えることで競争原理やロックイン状況の改善が見込まれます。

中間報告では、プラットフォーム事業者に対して、データポータビリティが実施できない理由の開示を求める指摘がありました。

「最終報告の事業者インタビューでは、グーグルやフェイスブックの対応が記されていました。グーグルは『自分のデータをダウンロード』というツールを提供しているとあります。日本でも2020年の改正個人情報保護法の中で、保有個人データの開示情報について電磁的記録の提供を含め、本人が指示できるようにする、と記されました。ただ最終報告では、プラットフォーム事業者がデータポータビリティをできない理由を開示することについての言及が明確でなく、その点について中間報告書からややトーンダウンした印象を持ちました」(宮崎)

課題解決に向けて関連法制の適用も

3点目が、同意のコントールの実効性についてです。

「最終報告の191ページには消費者庁アンケート調査結果に基づいて、消費者の3分の2から8割超は(利用同意に対する)オプトアウト(無効化)できる設定があることを知らない、JIAA意識調査によるとオプトアウトを実行したことがある消費者は10%強に止まっている、と記されています。同意コントロールは実効性をもって機能しているとはいえない状況です」(宮崎)

「ただし、こちらについては最終報告(P.212)に示された対応の方向性で、ターゲティング広告を実施する旨及び事前の設定の機会やオプトアウトの機会の提供についての開示を求めています。こちらはよい提言だと思いました」(宮崎)

さて、経済産業省では「特定デジタルプラットフォームの透明性および公正性の向上に関する法律」いわゆる透明化法の規制対象となる事業者を2021年4月に指定しました。アマゾンジャパン、楽天グループ、ヤフー、アップル、グーグルが挙げられています。

ただ、透明化法はあくあまで規制の大枠を定めるもの。具体的な課題解決に向けては前述の共同規制に加えて、独占禁止法、個人情報保護法、電気通信事業法および関連するガイドラインなどで課題に対応することが言及されています。

個人情報保護法の対象とならない、CookieやIDFAなどターゲティング広告で用いられる個人識別可能なIDの利用においては、最終報告38ページなどにあるように電気通信事業法の利用者保護法制のもと、プライバシーに配慮した対応がデジタル広告事業者に求められると見られます。

お問合せ