毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。
- 配信日:2021年2月25日
- タイトル: 欧州のデータインフラを目指すGAIA-Xとは
- 発表者:データサイン 代表取締役社長 太田祐一
米国企業や中国企業によるデータ流通の寡占に対する欧州の危惧
GAIA-Xとは欧州が主導するデータインフラ(A Federated Data Infrastructure for Europe)の構築プロジェクトです。現在進行中のプロジェクトのねらいやデータインフラの目指す姿について、データサイン 代表取締役社長 太田祐一がランチタイムトークで解説しました。
「ベルギーのシンクタンクのCepsが行った調査結果では、欧米のデータの90%以上が米国のデータセンターに保管されている、ということです」(太田)
とりわけ欧州は、Amazon Web Services(AWS)やMicrosoft Azureといった米国企業、アリババなどの中国企業の台頭に神経を尖らせています。
「EUのGDPR(一般データ保護規則)で規制はしましたが実質的にデータが国外に保管される状況を打開するために、GAIA-Xプロジェクトが動き出したと見られます」(太田)
GAIA-Xは2019年2月にドイツとフランスの産業大臣が発案し、同年9月にGAIA-X AISBLと呼ぶ非営利組織が設立されました。GAIA-X AISBLには、EU域内の企業や研究機関を中心に約200の組織が参加申請しています。
スマートIoT推進フォーラムの資料によると、欧州企業だけでなく、米国・中国のクラウド事業者やITベンダー大手も参画しており、国境を越えたデータ移転(データポータビリティの確保)や、多様な事業者が参画する際の技術的な敷居を下げるインターオペラビリティ(相互運用性)の実装を見据えたオープンな姿勢がうかがえます。
「GAIA-Xの普及を促進するInternational Data Spaces Association(IDSA)は、EUデータ戦略で掲げられたデータのシングル・マーケット、すなわちEU Data Space(データスペース)を提案する団体の1つ、としても知られています」(太田)
上記資料によると、2021年3月21日にGAIA-X技術標準仕様書(第1版)とポリシールールが公開され、2021年第3四半期にGAIA-X α版、第4四半期にGAIA-X v1が順次リリースされる予定です。
「分散型データ管理モデル」とはいえ中央集権的な色合いが濃い
GAIA-Xはどのような仕組みになっているのでしょうか。
スマートIoTフォーラムの資料によると、そのアーキテクチャーは、分散型データ管理モデルで、さまざまな既存クラウドサービスと共存、相互運用性を確保するとあります。
SIPスマート物流フォーラムが翻訳した、ドイツの連邦経済エネルギー省発行の「GAIA-X : Technical Architecure」(邦題「GAIA-X :技術アーキテクチャ(リリース:2020年6月))によると、ポリシールール、標準アーキテクチャ、相互接続(interconnection)の上にインフラとデータのエコシステムが構築されるイメージが掲載されています。その中心には核となるデータスペース(Data Spaces)が配置されています。
GAIA-Xのサービスを利用するには、フェデレーションと呼ばれる認証連携が用いられるようです。
「おおまかにいうと、App Storeでスマホユーザーがアプリを購入するようなイメージかもしれません。GAIA-Xにおいてサービス事業者(SP)が提供するサービスを利用するためにコンシューマーはログインの必要がありますが、その際はソーシャルログインのようにさまざまなIDプロバイダー(IdP)のIDからログインできると思われます。しかし、それらIdPはGAIA-Xに登録済みの事業者に限られます。その意味では、分散型ID(DID)と同様に『分散型』と呼べるのか疑問があります。IdPやSPの選別にGAIA-Xに参加する国が関わるとすれば、中央集権的な色合いが濃く出ます」(太田)
個人のデータ主権は守られるのか?
巨大プラットフォーマーに握られていたデータを取り戻そうとするGAIA-Xの動きは一石を投じるものですが、そこで果たして個人のデータ主権は守られるのでしょうか。
「特定の少数企業が寡占的に握る状況に比べると良いのではないでしょうか。GAIA-Xには複数の国や企業が参加するオープンな側面があるからです。その結果、異なる組織間でのデータポータビリティを確保するためのデータフォーマットの標準化や、ユーザー自らデータをコントロールできる可能性が期待されます」(太田)
一方、個人がパーソナルデータを自分自身のために使い、自分の意思で安全に共有できるようにすることを目指すMyData Globalの中には、中央集権的なアプローチを取るGAIA-Xに懐疑的な意見もあるようです。
「もともとGAIA-Xの出発点が、企業間のデータ流通の確保する、いわばGAFA対策にありました。個人のデータ主権のコントロールは後付けだ、コンシューマーや個人を起点としていない、という見方も少なくないようです」(太田)
徐々に全貌を表し始めたGAIA-X。今後もその動向をチェックする必要がありそうです。