毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。
- 配信日:2025年4月24日
- タイトル:Googleによる3rd Party Cookie同意プロンプト実装の撤回
- スピーカー:DataSign(データサイン) 代表取締役社長 太田祐一
- MC:ビジネスディベロッパー 宮崎洋史
ChromeブラウザからのサードパーティーCookie削除を断念
2025年4月22日、グーグルのPrivacy Sandbox(プライバシーサンドボックス)開発チームはサードパーティーCookie同意プロンプトの実装計画を見送ることを公式ブログで表明しました。ChromeブラウザにおけるサードパーティーCookieの削除を事実上断念する内容です。ランチタイムトークではここまでの経緯を振り返るとともに、プライバシーサンドボックスが担う今後の役割を話題に取り上げました。
デジタル広告市場を支えるテクノロジーであると同時に広告を閲覧するユーザーのプライバシーを侵害するリスクの高さから、グーグルはChromeブラウザでのサードパーティーCookieの利用を2年以内に廃止すると表明したのは、2020年1月14日のことです。
ここでグーグルは、サードパーティーCookieを代替する技術としてプライバシーサンドボックスの開発を発表しました。ところが、プライバシーサンドボックスの仕様を巡る議論がまとまらず、開発の進捗は芳しくありません。サードパーティーCookie廃止の時期が繰り返し延期されてきたことは、ランチタイムトークでもしばしば話題になりました。
サードパーティーCookieの保持をユーザーが決める同意プロンプト
英国の規制当局である競争・市場庁(CMA)はグーグルによるサードバーティ―Cookie廃止はデジタル広告市場に不公平な競争環境をもたらすものだとかねがね警鐘を鳴らしてきました。
ChromeブラウザでサードパーティーCookieを廃止してメリットが得られるのは、ブラウザのファーストパーティーCookieを利用して、ユーザーに適した広告配信可能な優位性を保つグーグルです。他方、サードパーティーCookieを利用してきた既存の広告事業者が相対的に不利な立場に追い込まれかねません。
グーグルはCMAの懸念解消に向けた対応を進めるとともに、広告主や広告事業者が利用できる各種プライバシーサンドボックスAPIの開発などを進めました。それにより2024年1月4日に全Chromeの1%を対象にサードパーティーCookieの廃止を始めることを発表。さらに2024年10月からその比率を100%まで拡大する計画を掲げましたが、実施のタイミングは引き延ばされます。
背景にはデジタル広告業界、規制当局、開発者からのフィードバックや意見の調整が難航したことです。そして2024年7月22日にグーグルは、ChromeからサードパーティーCookieを削除する代わりに、ユーザーがサードパーティーCookieを保持するかどうかを十分な情報に基づいて選択できる仕組み(informed choice)を発表しました。「同意プロンプト」と呼ばれます。
これに対してCMAは英国のデータ保護機関であるICO(Information Commissioner’s Office)と協力し、グーグルの新しいアプローチを慎重に検討していくと述べ、予定していた四半期報告書の発表を見送りました。
変わるプライバシーサンドボックスの役割
「サードパーティーCookieの利用に同意するかどうかを尋ねるプロンプトがブラウザの画面に表示された場合、どれだけのユーザーが『はい』を選択するのか。『いいえ』を選択する人が多ければ、サードパーティーCookieの削除と本質的には変わりません。それによりCMAやデジタル広告業界と折り合いがつかなかったのかもしれません」(データサイン 代表取締役社長 太田祐一)
グーグルが主導し、W3Cで標準化が進められてきたプライバシーサンドボックスは今後どのようになるのでしょうか。前出公式ブログでは、2022年にCMAとICOと正式な関わりを築いて以降、世界中の規制環境も大幅に進化したことに触れています。そして開発で培ってきた知見や企業との連携を活かし、新たな広告エコシステムを作るための次のステップに進む決意が伝わってきます。
「プライバシーサンドボックスはサードパーティーCookieの代替技術という位置づけから、プライバシー保護に特化した技術へと役割を転換し、新たなステージに入るとみられます」(太田)