毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。

  • 配信日:2024年5月9日
  • タイトル:スマホソフトウェア競争促進法案
  • メインスピーカー:データサイン 代表取締役社長 太田祐一
  • MC:ビジネスディベロッパー 宮崎洋史

スマホユーザーの選択肢を豊かに

「iPhoneで商品やサービスを買う時にアップルが指定する支払い方法しか選べず不便」「Androidには最初からグーグルの検索エンジンが設定されている。自分が使いたいものは別にあるのに」--。こんな不満や経験をお持ちのスマホユーザーは少なからずいらっしゃるかもしれません。

スマホユーザーの選択肢を狭めることは、健全な市場競争の妨げにもつながります。そこで日本政府は2024年4月26日、「スマートフォンにおいて利用される特定ソフトウェアに係る競争の促進に関する法律案」を閣議決定しました。

特定ソフトウェアとは、スマートフォンの利用に特に必要なソフトウェアすなわち、モバイルOS(基本動作ソフトウェア)、アプリストア、ブラウザ、検索エンジンの総称です。

法案のねらいは、セキュリティの確保を図りつつ、多様な企業が製品やサービスを提供するように敷居を下げること。そしてイノベーションを活性化し、私たちユーザーがより多くの選択肢を持てることです。

規制対象事業者がやってはいけないこと、やるべきこと

法案では、規制対象事業者として指定された特定ソフトウェアを提供する事業者が、守るべき禁止事項と遵守事項、そして規制の実効性を確保するための罰則を含む各種措置が記されています。

禁止される事項には次のような内容が含まれます。

  • モバイルOSまたはアプリストアに関して、個別アプリ事業者に対し、不当に差別的な取扱いその他の不公正な取扱いをすること(第6条)
  • アプリストアにおいて、特定の支払手段の利用を条件とすること、関連する情報の表示を制限することなど(第8条)
  • 検索結果において、自社または子会社などの商品・役務を不当に優先的に取り扱うこと(第9条)

一方、規制対象事業者が遵守すべき事項には次のようなものがあります。

  • 他の事業者やユーザー(利用者)に対し、どんなデータを取得して何に使うのか情報を開示すること(第10条)
  • ユーザーの求めに応じて、ユーザーまたはユーザーが指定する者に対し、取得したデータを移転するための措置を講じること(第11条)
  • ユーザーが簡易に標準設定を変更できるようにすること、ユーザーの選択に資する措置を講じること(第12条)
  • 事業の概要や遵守事項の実施状況などを記載した報告書を毎年度、公正取引委員会に提出すること(第14条)

「もし違反した場合、その違反行為に関連する売上の最大20%(違反を繰り返した場合は同30%)の課徴金が科せられる、といった罰則も盛り込まれています」(データサイン 代表取締役社長 太田祐一)

今後決められる政令次第では法律が骨抜きに?

ただし「どの企業が規制の対象になるのか」という特定ソフトウェア事業者を指定するための規模の基準は、この法案では具体的に定められていません。詳細は今後、政令で決められることになっています。

ほかにも政令で決定される事項として、基本動作ソフトウェアやアプリストアに係る指定事業者の禁止行為の例外、などが挙げられます。

「セキュリティ確保のため、という正当化理由で禁止事項の例外が認められ、形骸化しては実効性が低下します。このあたりをどう判断するか、今後決められていく政令の中身は重要です」(太田)

本法案は2024年6月の国会で成立・公布の予定で、2025年末までに施行される段取りです。

また本法案は、内閣官房デジタル市場競争会議およびデジタル市場競争会議ワーキンググループで検討され、2023年6月に公表された「モバイル・エコシステムに関する競争評価 最終報告」に基づいて起案されています。

そのため、2023年3月から先行して本格的な運用が開始された欧州のデジタル市場法(DMA)や、英米の動向など、日米欧のデジタル市場が足並みを揃えてデジタルプラットフォーム事業者に公正な競争を求めていくスタンスです。

スマホの世界がどう変わり、私たちにどんな影響があるのか、これからの動きにもぜひ注目しましょう。