毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。
当記事で取り上げるのは以下の配信です。
- 配信日:2021年11月04日
- タイトル: 失われたのは1兆円?ATT(Apple Tracking Transparency)の影響を探る
- 発表者:データサイン 代表取締役社長 太田祐一
ATTがデジタル広告市場に与えるインパクト
2021年11月10日のフィナンシャルタイムズに掲載された記事「Snap, Facebook, Twitter and YouTube lose nearly $10bn after iPhone privacy changes」(iPhoneプライバシーの変更によりスナップ、フェイスブック、ツイッター、ユーチューブ4社合計で1兆円もの損失)についてデータサイン代表取締役社長 太田祐一がコメントしました(本稿では便宜上1ドル=100円換算としています)。
2021年4月、iOS14.5に適用されたATT(Apple Tracking Transparency:アプリのトラッキングの透明性)。これによりアプリをまたぐユーザーの行動を追跡するにはIDFAと呼ばれる識別子の利用について同意取得が必須になりました。もしユーザーが「トラッキングの許可」をオプトアウト(拒否)すればアドテク事業者はターゲティング広告に必要な情報が得られず広告効果が落ちます。そのため広告主側が広告費を投じる先をグーグルのAndroidやApp Store内の検索広告「Apple Search Ads」に切り替える動きも出ています。
フィナンシャルタイムズ記事によると、アドテク事業者のロテイミー(Lotame)社はATTの影響により2021年第3四半期(7-9月)および第4四半期(10-12月)において、Snapchatを提供するスナップ、フェイスブック、ツイッター、ユーチューブの4社合計の損失は約9,850億円に達すると試算しています。そのうち最大の損失を被ると推定されるフェイスブックの2四半期における売上高は約6兆円、損失額はその13.2%にあたる約8,000億円と試算しています。またアドテク・コンサルタントのEric Seufert氏による試算ではフェイスブックの損失は約8,300億円とのこと。フェイスブックはスナップ、ツイッター、ユーチューブを遥かにしのぐダメージを受けることが記事で指摘されています。
フェイスブックの決算書を確かめてみた
フェイスブックの最高財務責任者(David Wehner氏)はアップルのプライバシーポリシーの影響はチャレンジングで、自分たちが予想していたよりも少しだけ破壊的であると述べた、と同記事は報じています。
一方、グーグルの親会社アルファベットとツイッターはアップルの変更を「ささやかなもの」と表現しています。
アルファベットは、ファーストパーティーのユーザーデータを十分に持っているためサードパーティーのアプリでユーザーを追跡する必要はないためです。
「同様に会員ベースのデータを持つフェイスブックをはじめ、スナップやユーチューブにおけるATTの影響はさほどないと考えられます。そもそも推定された損失額の出典(ソース)であるロテイミー社による試算は根拠が明示されていません。あらためてフェイスブックの決算をみても第3四半期の決算は、売上高は前年同期比33%増の約3兆円、純利益は17%増の約1兆円と好調です。フェイスブックは少なくとも第3四半期においてATTの影響はあまりうかがえません」(太田)
割を食っているのはアドテクギルドか
記事ではアップルの第3四半期における広告事業における売上高は予想を上回る好業績だと紹介されています。
「ATTの影響はユーザーデータを持っているプラットフォーマーにはあまりなく、アップル自体は業績を伸ばしています。記事にあるように本当に1兆円もの損失が出るのかどうか。むしろ、アドテクギルドと呼ばれるロテイミー社のような中小規模事業者が受けるビジネスインパクトが大きく、アップルやフェイスブックなプラットフォーマーに対する不満を強めている様子がこの記事から読み取れそうです」(太田)
昨今、フェイスブックの内部告発者によりリークされた社内文書に基づいて同社を批判する多数のメディア記事(The Facebook Papers)が話題です。気になるニュース記事があったときは根拠となるニュースソースがどこか、ファクトと照らし合わせて読み進めたほうがよさそうです。