毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。
- 配信日:2023年11月2日
- タイトル:Facebook、Instagramの広告なし有料プランについて
- メインスピーカー:データサイン 代表取締役社長 太田祐一
- MC:ビジネスディベロッパー 宮崎洋史
欧州市場でサブスクリプションを開始
メタ(Meta)は2023年10月30日、EU、EEA(欧州経済領域)ならびにスイスに提供するFacebookとInstagramについて、ユーザー向けの広告が表示されない月額有料プラン(サブスクリプション)を追加しました。
料金は、ブラウザから申し込む場合は月額9.99ユーロ、日本円にして約1590円(ランチタイムトーク時点の為替レート)です。iOSおよびAndroidからは月額12.99ユーロ(同約2070円)。2024年3月以降はFacebookかInstagramを利用しているユーザーがもう一方のサービスを新たに利用する(アカウントを追加する)際は、ブラウザ経由の申し込みで月額6ユーロ、iOS/Androidでは月額8ユーロが加算されます。
「有料プランを選択すると、ユーザーに関する情報はFacebookなどの広告には用いられません。広告ありの無料プランと広告なしの有料プランの選択肢は、年齢18歳以上のユーザーに付与されます。18歳未満のユーザーには当面、広告が表示されなくなるということです」(データサイン 代表取締役社長 太田祐一)
有効な同意をユーザーから得るための選択肢
メタが新たに広告なしの有料プランを設けた背景には、GDPR(一般データ保護規則)やDMA(デジタル市場法)といった関連法制を遵守することを欧州各国のデータ保護当局に示すねらいがあるとみられます。
DMAでは、ターゲット広告を目的として、ゲートキーパー内のコアプラットフォームサービス以外で、有効な同意なしにエンドユーザーを追跡することが禁じられています。メタは2023年9月にゲートキーパー6社の1つに指定されています。
「DMAによりメタは、たとえばFacebookユーザーの行動履歴を、同意なくInstagram内での広告表示に利用することなどが認められなくなるでしょう」(太田)
一方、ユーザーに対してサブスクリプションモデルの選択肢を提示することは、パーソナライズ広告を表示するデータ処理に対するユーザーからの同意を得るための有効な形式であると、フランス、デンマーク、ドイツなど欧州のデータ保護当局と欧州司法裁判所(CJEU)が認めていることをメタは公式サイトの記事で主張しています。
GDPRにおいてデータ主体による同意の定義は、同法第4条(11)に記されています。個人情報保護委員会のサイトにある「同意に関するガイドライン」(仮日本語訳)をこちらに引用します。
自由に与えられ、特定され、説明を受けた上での、不明瞭ではない、データ主体の意思の表示を意味し、それによって、データ主体が、その陳述又は明確な積極的行為により、自身に関連する個人データの取扱いの同意を表明するもの
「同意は、自由に与えられる(freely given)ものでなくてはなりません。欧州のデータ保護当局などは、今回のメタの対応を有効な同意取得の形式と判断していると、メタは述べています。広告なしの有料プランはメタにとって新たな収益源ということもできますが、欧州における法規制対応に比重を置いているとみられます」(太田)
ユーザーの行動変容を促すかも
ところで、メタの取り組みを批判しているのが、本ランチタイムトークでもしばしば取り上げている「noyb」(ノイブ)、プライバシー保護に関する支援活動を展開する非営利団体です。いわく、金持ちだけがデータ保護の権利を享受できることになる、基本的権利を売り物にすることはできない、などと不満を表明しています。
メタの前述記事では、欧州における規制の考え方や目的をリスペクトし、それを遵守しつつも、広告ありの無料インターネットの重要性を訴えています。すなわちユーザーの経済力を問わず、それぞれのユーザーに適応した商品やサービスを利用することができる、小規模事業者も欧州市場において潜在顧客へリーチし、事業の成長や新市場の創出が可能になるなどと記しています。
18歳以上への有料プランの提示や18歳未満への広告非表示が中長期的にどのような行動変容をユーザーや広告市場の関係者にもたらすのか。今後もウォッチしたいと思います。