毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。
- 配信日:2020年7月9日
- タイトル:「デジタル広告市場の競争評価 中間報告」の注目点
- 発表者:株式会社データサイン 宮崎 洋史
デジタル広告市場の健全な成長を提言
2020年6月16日に「デジタル広告市場の競争評価 中間報告」が発表されました。データサインの宮崎洋史がこの中間報告のなかで着目した内容を紹介します。
中間報告を取りまとめたのは、デジタル市場競争会議(議長は内閣官房長官)です。こちらは2019年9月に、内閣官房デジタル市場競争本部のもとで開催が閣議決定された組織。中間報告は4回の会議と13回に及ぶワーキンググループを通じて、様々な関係者からのヒアリングや、公正取引委員会・消費者庁のアンケート調査結果などを踏まえて取りまとめられました。
93ページに及ぶ中間報告書は4つの章からなり、デジタル広告市場の課題、それらへの対応の方向性、今後検討対象となり得る具体的なオプションなどがまとめられています。
近年顕著な傾向として指摘されているのは、デジタル広告の約8割を占め、リアルタイムに広告枠が取引される運用型広告において、広告を出稿したい広告主と、広告枠の売り手であるパブリッシャーの仲介・入札・広告効果測定、収益化などを支援する各種プレイヤーの機能が一部のプラットフォーム事業者により垂直統合・寡占化されているという懸念です。その結果、透明性・公正性、競争制限行為などの観点から健全な市場育成を阻害しているのではないか、と危惧されています。
諸課題への対応の方向性に係る基本的な方針では、公平性・透明性・選択の可能性の確保や向上、イノベーションを過度に阻害せずイノベーションによる課題の解決を促す枠組み、パーソナルデータの取り扱いへの懸念と市場競争環境を横断的視点で対応する、という言及がなされています。
消費者の視点に立ったパーソナルデータの活用を
報告書の大部分を占めるのは第3章です。デジタル広告市場における10個の課題が「透明性」「データ利活用」「垂直統合」「手続等の公正性」「消費者の視点」という5つのカテゴリで括られ、さらに各課題が、問題の所在、評価のフレームワーク(市場・消費者からの意見や要望に対する同会議の見解)、対応の方向性、という切り口で論考されています。
「この中で最も多くのページが割かれているのが、消費者の視点、つまりパーソナルデータに関する課題です。デジタル市場競争会議がパーソナルデータを相当重視していることが窺えます」と宮崎は述べます。
デジタル広告市場において、消費者には「デジタル広告の表示を受ける立場」と「デジタル広告のターゲティングに用いられるデータを提供する立場」の2つの側面があります。
前者の立場では、消費者の7割弱がターゲティング広告を受け取ることを「求めていない内容の広告が表示されるため」「同じ内容が執拗に表示される」などの理由で煩わしい、「要配慮情報などを基に広告が表示される」などのために不快と感じている、と報告書にはあります。
後者の立場では、「プラットフォームによるデータの取得・利用に懸念がある」「居住地域、位置情報を活用されることに対する拒否感が強い」など、データに基づく属性・嗜好の推定(プロファイリング)に対する消費者のネガティブな受け止めが示されています。
「データの取得・利用に関する透明性の向上のため、一部のプラットフォーム事業者に対して、どのデータがターゲティング広告のために必須で、どのデータがその精度向上などのために付加的に利用されるのか、明らかにせよ、とあります。消費者の理解がどの程度進んだのかもモニタリングすることも対応の方向性において要請されています」(宮崎)
併せて、同意のコントロールの実効性、すなわち消費者が実質的にデータの扱いをコントロールしやすい状態になっているかどうかも指摘しています。
「検索サイトの消費者に対して、データの取得・利用に同意するか事前に尋ねる設定変更オプションを提示し、定期的に通知する例を挙げています。消費者が図らずもロックインされる現状維持バイアスに陥らないように、同意コントロールの権利を消費者側に寄せるべきという意図を行間から感じました」と宮崎は指摘します。
消費者個人の認知限界を踏まえた事業者側の配慮が不可欠
報告書には、パーソナルデータの取り扱いに関するサービスの質的な競争を促し、ロックイン状況を改善するためデータポータビリティの重要性、およびプラットフォーム事業者に対するそれが「できない場合の理由の開示」への言及もあります。
「とはいえ、データポータビリティやインターオペラビリティ(相互運用性)がどのような仕組みで実行されるのかなどの具体的な記述は欠けています。事業者間の連携・協力などに対する会議体や政府の動きには、引き続き注目したいと思います」(宮崎)
報告書にあるように、日本の広告費全体(約6.9兆円、2019年度)の約3割を占めるデジタル広告市場は、極めてイノベーティブな分野である半面、広告主・広告代理店、パブリッシャー、またデータを提供する個人にとって、複雑で理解することが難しい領域です。複雑なデジタル広告の仕組みに対する消費者個人の「認知限界」という用語が頻出しますが、消費者に対して事後的に同意撤回(オプトアウト)できる機会をわかりやすい形で提供する取り組みも、プラットフォーム事業者側に求められています。
デジタル市場競争会議では中間報告書に対する意見募集などを実施し、今年の冬に最終報告の公表を目指すそうです。ぜひ、みなさんもご注目ください。