毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。
当記事で取り上げるのは以下の配信です。
- 配信日:2022年6月16日
- タイトル:モバイル・エコシステムに関する競争評価 中間報告
- 発表者:データサイン 代表取締役社長 太田祐一
デジタル市場競争本部が発表した報告書
内閣官房デジタル市場競争本部では、「モバイル・エコシステムに関する競争評価 中間報告」に関するパブリックコメントを、2022年4月26日から6月10日にかけて募集しました。報告書の中で気になる点をデータサイン 代表取締役社長 太田祐一が話題に取り上げました。
報告書のP.5には、スマートフォンという強い顧客接点の上に、多くのユーザーと多くの商品・サービス提供事業者とをつなぐための強固なエコシステム(モバイル・エコシステム)が形成されていることが指摘されています。
「このモバイル・エコシステムが主にアップルやグーグルなどのプラットフォーム事業者に支配されていることが、さまざまな歪みを生じさせています。その課題と解決策について、デジタル市場競争本部としてこのように考えているが国民の皆さんはどうですか、ご意見を募集します、という内容になっています」(太田)
同報告書に対しては、太田も理事を務めるMyData Japanもパブコメをしています。
ユーザーのサイドローディングを認めるべき?
さて、280ページに及ぶ報告書の中で、太田が注目したのがアプリストアに関する話題です。
ご存知のように、アップルのiPhone向けアプリは、アップルが運営するApp Storeのみから入手することができます。ユーザーにはiPhoneにプリインストールされたApp Store以外の他のアプリストアの利用が認められていません。一方、グーグルが提供するGoogle Playでは他のアプリストアの利用が容認されています。
「サードパーティーのアプリストアやウェブサイトからアプリをダウンロードすることを『サイドローディング』と呼びますが、iPhoneでは禁止されています。これを報告書ではアプリストアの拘束と指摘しています」(太田)
これに対してアップルの主張は、「サイドローディングを防ぐという決定は、マルウェア、ウイルスといったセキュリティ上の課題に直面し続けるPCと同じ轍を踏むことがないよう、iPhoneを閉じたエコシステムとすることで、セキュアで信頼性が高く、使いやすいものにするという目標に沿ったもの」と記されています。
報告書では、「対応のオプションと主にご意見をいただきたい事項」として、「サイドローディングを許容する義務」を挙げています。その1つには、一定規模以上のOSを提供する事業者がアプリストアを提供する場合には、ユーザーがサードパーティーのアプリストアをインストールすることができ、それをデフォルトとして選択できるようにするという提案です。
「現時点ではアップルの主張通り、サイドローディングを禁止することでiPhoneユーザーの安全性が確保されている側面はあるでしょう。とはいえ、欧米の法規制や他社の事例を参考に見直すべき部分はありそうです」(太田)
アップルやグーグルが徴収する手数料は高すぎ?
アプリストアでアプリを有料配信したり、アプリ内コンテンツを販売したりして収益を上げるアプリの開発者(報告書では、サードパーティ・デベロッパ)は、アプリストアの運営者に対して手数料を払う必要があります。この手数料は、アプリ内課金システム(IAP:In-App Purchase)を用いる決済手続きを経て徴収されます。
手数料はアップルの場合、売上高の30%が原則で、年間収益が100万米ドル以下などの諸条件を満たせば低率(15%)が適用されます。グーグルの場合も同様に売上高の30%、低率(15%または10%)というルールで開発者は売上高の一部を納めなければなりません。アプリストアについては、この制度に対する不満もかねてより指摘されています。
これに対してアップルは、App Storeのビジネスモデルの基礎であること、App Storeを利用するための対価であるとして妥当性を主張しています。グーグルでも同様です。
これについて報告書では、「多様な決済・課金手段やサービスの提供が確保され、ユーザー自身がそれらを選択することができるような競争環境を実現するため、一定規模以上の OS を提供する事業者がアプリストアを提供する場合には、そのアプリストアでアプリ・デベロッパがアプリを提供する場合に、当該 OS を提供する事業者が所有又は管理する IAP の利用を当該アプリ・デベロッパに義務付けることを禁止する規律を導入することが考えられるのではないか」と提案しています。
そして、韓国ではグーグルに対して決済・課金サービスの利用規制を禁止する法令が施行されたことが、オランダではアップルに対して同社が提供するIAPの利用強制を禁止する措置が取られた事例が記されています。
「両国の事例については、いずれも議論が継続しているとの認識だと記されていますが、日本でもこの報告書をきっかけにIAP利用強制の禁止についての議論がさらに進むかもしれません」と太田は見解を述べました。