毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。
- 配信日:2024年9月19日
- タイトル:ニュースコメンタリー
- メインスピーカー:DataSign(データサイン) 代表取締役社長 太田祐一
- MC:ビジネスディベロッパー 宮崎洋史
グーグルが発表したプライバシー強化技術
この日のランチタイムトークは、ニュースコメンタリー。プライバシーに関連するテクノロジーの話題を2つ取り上げました。
まずは、グーグルが2024年9月12日に発表した「Confidential Matching」(コンフィデンシャルマッチング)です。
グーグルは、Google広告データマネージャーなどのソリューションにおいて、オンライン広告で集客したい広告主が保有するユーザーに関するデータ(電話番号やメールアドレスなどのファーストパーティーデータ)と、グーグル側が保有する当該ユーザーの情報を照合して各ユーザーに最適と思われる広告を配信したり、類似する関連性の高いオーディエンスにリーチを広げて広告効果を高めたりするカスタマーマッチというサービスを提供しています。
「とはいえ、広告主とグーグルが個々のユーザーの機微な情報をやりとりすることに対してプライバシーやセキュリティの面から懸念する指摘がありました」(データサイン 代表取締役社長 太田祐一)
そこで、グーグルがプライバシー強化技術(PETs:Privacy-Enhancing Technologies)の一環で開発したのがコンフィデンシャルマッチングです。
グーグルが発信する広告関連のブログによるとコンフィデンシャルマッチングは、グーグルが開発する「コンフィデンシャル コンピューティング」というセキュアな環境において実行されます。Trusted Execution Environment(TEE)といわれる高信頼の実行環境は暗号技術を用いることで、グーグルでさえも処理中のデータにアクセスできないので安全だ、としています。グーグルはこのコンフィデンシャルマッチングを既存のカスタマーマッチにすでに導入済みであることを述べています。
ランチタイムトークでは、グーグルを含む巨大プラットフォーマーが昨今相次いで発表するTEEの動向や概要に触れました。
用語の乱立や車輪の再発明を防ぐ「ことば」の体系化
もうひとつの話題は、IAB Technology Laboratory(以下、IABテックラボ)が公表した「Fideslang」(フィーデズラング)という名称のプライバシータクソノミー(分類法)についてです。
IABテックラボは2014年に設立された非営利のコンソーシアムです。IAB(Interactive Advertising Bureau)、すなわちオンライン広告における技術的標準規格の策定や動向調査、自主規制の整備などを担う非営利団体と協業して、標準の開発や実装、コードのメンテナンスなどを引き受けています。
IABおよびIABテックラボはこうした標準に基づくソリューションの提供を通じて、デジタル広告におけるサプライチェーンにおけるデータのやりとりの円滑化、いわゆるデータの相互運用性と市場拡大に取り組んでいますが、今回発表したプライバシーに関するタクソノミー(taxonomy)もそこに焦点を定めています。
出典:IAB Tech Lab & Fideslang(https://iabtechlab.github.io/fideslang/#fideslang-privacy-taxonomy-explained )
プライバシーやガバナンスに関する英語表現は法律やデータベースのデータ項目などに数多く存在しますが、Fideslangではそれらをデータ要素(Data Elements)、データの使用目的(Data Uses)、データ主体(Data Subjects)の3つの切り口で整理し、それぞれの定義や相互の関係性、また対応する北米のプライバシー法令(CCPAなど)を体系的に俯瞰できるようにしています。
たとえば、データ主体には、Child(15歳未満のこども)がありますが、それはさらに「13歳未満のこども」と「13歳から15歳未満のこども」に分かれています。
このように標準化したデータをオープンにすると、どんなメリットが得られるのでしょうか?
「法令に基づいてデータベースなどを開発するときに、タクソノミーが参照情報(リファレンス)として公開されているとデータ項目や値の定義で迷いにくくなります。開発の生産性が高まるほか、用語の乱立などいわゆる車輪の再発明を防ぐメリットが期待されます」(太田)
タクソノミーはいちど作って終わりではなく、社会や法制度の変化に合わせてアップデートされる必要があります。日本を含む各国のIABの関係機関などを通じた意見のフィードバックなどによりタクソノミーの拡充と活用が注目されます。