毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。

  • 配信日:2025年5月22日
  • タイトル:個人情報保護委員会による初の緊急命令について
  • スピーカー:DataSign(データサイン) 代表取締役社長 太田祐一
  • MC:ビジネスディベロッパー 宮崎洋史

犯罪組織へ名簿を販売

2025年5月16日、個人情報保護委員会は名簿販売の事業を営む有限会社ビジネスプランニングに対して、個人情報の保護に関する法律(平成15年法律第57号。以下、個人情報保護法)に基づく行政上の対応を行うことを決定しました。同社は個人情報取扱事業者として「元祖名簿屋ドットコム」と銘打ち、個人や法人の名簿を売買していました。

事の発端は警察から同委員会への情報提供でした。公表資料によると「特殊詐欺グループの被疑者が、ビジネスプランニング名義の銀行口座等へ送金していた事実が確認された」ことを知った同委員会は2025年4月18日、ビジネスプランニングへの立入検査を実施。その際、個人情報の取扱いについて同法第19条(不適正な利用の禁止)の規定違反及び個人の重大な権利利益を害する事実が認められました。

同社に対する行政上の対応とは、命令(個人情報保護法 第 148 条第3項の規定)と勧告(同法第 148 条第1項)、そして報告等の求め(同法第 146 条第1項の規定)です。

「行政上の対応」の具体的な内容

同社は2023年5月から2024年10月にかけて、名簿の販売先が違法な行為に及ぶ者である可能性を認識していたにもかかわらず、個人情報を提供していました。

命令には、同社が不適正な利用の禁止に違反する個人情報の提供を直ちに中止すること、また、個人情報の提供先の利用目的を特定するなど再発防止に向けた社内ルールの整備や定期監査の実施について記されています。

一方、勧告の内容は、第三者提供に係る記録の作成等を命じる個人情報保護法 第29条などに従い、同社が個人データを第三者に提供したときは、「個人データを提供した年月日、当該第三者の氏名又は名称及び住所等の記録が必要な事項について、適切に記録を作成し保存すること」とあります。前述した立入検査で、第三者提供に係る記録の一部のみ作成していたものの、それ以外の取引については一切記録を作成していなかったことが判明したためです。

そして、報告等の求めでは、命令および勧告した事項の履行状況を確認するため、2025年5月30日までに、整備した体制の内容について同委員会に報告し、また本件命令の発出後1年間は毎月、個人データの第三者への提供状況及び提供時の確認状況を報告することとしています。

なお、一般に個人情報保護法に違反した個人情報取扱事業者(法人およびその役員、社員など)にはその旨の公表に加えて、罰金刑や拘禁刑など刑事罰が科される可能性があります。

特殊詐欺の芽を摘む闇名簿対策の強化

「緊急命令は法的拘束力が強く、被害が重大かつ差し迫っている場合に発出されます。今回は個人情報保護委員会による初めての緊急命令でした」(データサイン 代表取締役社長 太田祐一)

2025年4月22日に犯罪対策閣僚会議において決定された「国民を詐欺から守るための総合対策 2.0」では特殊詐欺対策として、闇名簿対策を推進することとされています。

特殊詐欺事件では暴力団や匿名・流動型犯罪グループが特殊詐欺のターゲットを選定する際、氏名や住所などの個人情報がリスト化された名簿を用いている状況が浮かび上がっています。

警察は、特殊詐欺の捜査の過程で、悪質な「名簿屋」等の事業者を把握した場合に、個人情報保護委員会に対して積極的な情報提供に努めることなどとされ、同委員会も「名簿屋」等の事業者において、法上問題となる事態が確認された場合には、厳正に対処していくこととされています。

この日のランチタイムトークでは視聴された方からの多くの質問が寄せられ、関心の高さがうかがえました。