毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。

  • 配信日:2024年6月6日
  • タイトル:個人情報保護委員会における「いわゆる3年ごと見直し」に対する議論
  • メインスピーカー:データサイン 代表取締役社長 太田祐一
  • MC:ビジネスディベロッパー 宮崎洋史

複数の関係団体などにヒアリングを実施

個人情報保護法(令和2年改正法)の改正に向けて、国が検討や協議を重ねています。2024年6月3日に開催された第287回 個人情報保護委員会では、改正が必要なポイントに関するヒアリングが有識者を招いて行われました。当日の公開資料をランチタイムトークの話題に取り上げました。

「個人情報保護委員会では2023年11月下旬以降、複数の関係団体などにヒアリングを実施しています。JIPDEC、欧州ビジネス協会、新経済連盟、IT団体連盟、在日米国商工会議所などのほか、京都府や岡山市など地方公共団体(自治体)も含まれています」(データサイン 代表取締役社長 太田祐一)

第287回委員会のヒアリングに応じたのは、曽我部真裕 京都大学大学院法学研究科教授、山本龍彦 慶應義塾大学大学院法務研究科教授、森亮二 英知法律事務所弁護士、宍戸常寿 東京大学大学院法学政治学研究科教授の4名です。

検討テーマは大きく3つ

いわゆる3年ごと見直し規定に基づいた検討テーマは大きく、(1)個人の権利利益のより実質的な保護の在り方、(2)実効性のある監視・監督の在り方、(3)データの利活用に向けた取組に対する支援等の在り方」に分類されます。

曾我部教授は、欧州GDPR(一般データ保護規則)との比較などを踏まえて日本の個人情報保護法の位置付けを整理するとともに、検討テーマ(1)(2)にコメントしています。

また、山本教授は、個人情報保護は「人権」(憲法13条)の問題であると指摘。また個人情報保護の「本丸」としてのプロファイリングについて説明しています。AI等の高度な情報技術を用いて要配慮個人情報を推知する場合や、ダークパターンの法律的な解釈や必要な規律などへの言及があります。

森弁護士は、あるべき改正の方向性として、「デジタル対応」「グローバルスタンダードへの接近」「プライバシーの重視」および「医療情報、災害時は特別法で」の4点を挙げています。そのうえで9つの改正事項を提案。その1つ「個人情報の概念の拡大とその他の概念の整理」では、端末やブラウザの識別子、スマホの電話番号、メールアドレスなどを単体で個人情報とすべきとしています。

宍戸教授は、2019年5月21日に開催された第106回委員会で述べた事項をあらためて指摘しています。その1つに、個人情報保護法の目的(1条)・人格尊重の理念(3条)におけるプライバシー保護の明確化を挙げています。

ゆるい法律は国際的な信用(トラスト)低下の一因に

「主に経済団体からは事業者の萎縮を招くなどの理由で、個人情報保護法における課徴金の導入や、個人の権利利益を侵害した企業に対する団体訴訟制度などに反対する意見が存在します。今回のヒアリング資料では、これらの導入や制度化を求める意見が多く見受けられました」(太田)

資料からは個人情報保護委員会の有するリソースや権限、個人の権利利益の保護に必要な監視・監督の実効性が不十分であること、したがって日本の法律はグローバル基準でみると不信感を招きかねず、国際的なデータの流通や利活用を妨げる懸念があることがうかがえます。

改正に向けては2024年12月に大綱が公表され、2025年3月に法案提出、同年6月に成立・公布される見通しです。政令・委員会規則の公布およびガイドライン・Q&Aの公表は2026年以降になる予定です。