毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。

  • 配信日:2023年1月5日
  • タイトル:個人情報保護法に対するGLOCOM六本木会議の提言について
  • メインスピーカー:データサイン 代表取締役社長 太田祐一
  • MC:ビジネスディベロッパー 宮崎洋史

「個人情報保護」が保護するものは?

2022年12月22日、『デジタル社会を駆動する「個人データ保護法制」に向けて』と題する提言が、GLOCOM六本木会議から発表されました。こちらの提言について、データサイン 代表取締役社長 太田祐一がコメントしました。

GLOCOMは、国際大学(IUJ: International University of Japan)付属の社会科学系研究所として、1991年に設立された「国際大学グローバル・コミュニケーション・センター」の略称です。GLOCOM六本木会議は、2017年9月にGLOCOMが設立したコミュニティであり、「情報通信分野において、次々と登場する革新的な技術や概念に適切に対処し、日本がスピード感を失わずに新しい社会に移行していくための議論の場を提供すること/政策提言活動を行うこと」を活動意義としています。

本提言に関するGLOCOMからのプレスリリースでは、医療、教育などの分野で重要性が高まる個人データの利活用に関して日本では「保護と利活用を両立できるルールや考え方が定まらず、議論は袋小路に迷い込んでいる感があります」と問題提起されています。

この混乱を解消するために提言では、個人情報保護法が制定されるきっかけとなった1980年のOECDガイドラインの制定趣旨に原点回帰し、保護すべき「個人の権利利益」とは何なのかを明らかにして、迷路から抜け出すためのロジックと解決策をまとめています。

個人データ保護で期待される規制と緩和

「提言の参考文献には、情報法制研究所(JILIS)副理事長を務める高木浩光氏へのインタビューをまとめた同研究所のブログ記事が掲載されています。提言書の内容も主に高木さんの研究に基づいているといえます」(太田)

ランチタイムトークでも以前、高木氏の同インタビュー記事に関する話題を取り上げました。併せてご覧ください(前編はこちら、後編はこちら)。なお、高木氏は情報法制研究12号に、個人データ保護に関する論文を発表されています。

「提言からは、まず『個人情報を保護する』のではなく、利用目的と関連のない個人データを用いた個人の選別から『人』を保護せよ(情報的他律からの自由)、という主張が読み取れます。もう1つは、選別に用いない個人情報の取得や個人データ利用であれば規制を緩和せよ、という主張です」(太田)

後者については適切なルールのもと、「統制された非選別利用」を前提として第三者提供を可能とする「医療仮名加工情報」制度の創設を提案しています。

本質的な議論を促すきっかけに

提言では、3年ごとに見直される個人情報保護法を、次の観点を踏まえて検討することが望ましいと述べています。

個人に対する「決定」(decisions)に用いないことを条件とする規定は、イギリスのデータ保護法 2018(19 条 (3) 項)や、フランスの情報処理と自由法 2018(4 条 2 項)にもみられるもので、共通の理論に基づいた制度設計といえます。日本法においてそのような規定が受け入れられるためには、自己情報コントロール権的な本人同意原則の発想から脱却し、個人データ保護法制が「決定指向」利益モデルに基づくものであることの理解を深めることが必要でしょう。(中略)OECD ガイドラインは、「決定指向」利益モデルに基づいているといえ、日本法もそれに沿って制定されてきたはずです。(中略)平成 27 年改正の際に残された課題となった、何が個人データに該当するのかとの論点も、「決定指向」利益モデルに基けば自ずと定まり、個人に対する何らかの決定を体系的に実施できる状態にあるデータが個人データであるということになるはずです。

「提言には賛同できる点が多々ありました。ただ、読み手から『自己情報コントロール権』と『情報的他律からの自由』が対立しているように受け止められないか、気になりました。たしかに現行法をめぐる混乱を解消するために、両者を整理したうえで見直すことが不可欠でしょう。一方、現行のインターネットやウェブにおける課題の1つ、知らない者同士のトラスト(信頼)の確保という観点では自己情報コントロール権に関する法的な整備も併せて必要と思います。双方が適切に整備されることで、提言が主張する情報的他律からの自由、または目的に対して関連性のない(irrelevant)データを用いて評価・決定されるべきでない、という状態を可能にする相乗効果をもたらすのではないか、という感想も持ちました」(太田)

GLOCOM六本木会議では民産学官の協力を掲げています。提言が、よりよい社会や経済の実現に向けたきっかけになることを期待します。