毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。
当記事で取り上げるのは以下の配信です。
- 配信日:2021年6月24日
- タイトル:お願い、制裁、共同規制
- 発表者:データサイン ビジネスデベロップメント担当 宮崎洋史
「お願い」をする日本の規制当局
今回のランチタイムトークはニュースコメンタリー。巨大IT企業と日・米・英各国規制当局の動きについて、データサイン ビジネスデベロップメント担当 宮崎洋史が気になった話題を取り上げました。
まずは、日本の規制当局の対応です。巨大IT企業に対する規制をわかりやすくまとめた書籍が2021年6月に発売されました。「膨張GAFAとの闘い」(若江雅子著、中公新書ラクレ)です。
著者の若江氏は読売新聞東京本社の編集委員。本書ではビッグテックの急激な進化への対応が後手へ後手へと回る日本の規制当局の対応、個人情報保護法改正の舞台裏、サードパーティーCookieをめぐるアドテク市場の動向など興味深いトピックスが、多くの当事者や関係者へ取材をもとにまとめられています。
「ほぼこの20年間に起きたデジタル広告市場の歴史を一気にキャッチアップできる良書です。実は本書に、データサインのメンバーも実名で登場します」(宮崎)
GAFAといわれる巨大IT企業に対して欧米の規制当局はしばしば制裁を発動します。
「それに対して日本の規制当局は海外のプラットフォーマーや国内の事業者に対して『お願い』する姿勢だと本書ではたびたび指摘がなされています。このお願いに日本の事業者はある程度対応していますが、海外勢にはこれを明らかに無視しているような企業もあり、読んでいて歯痒い思いがしました」(宮﨑)
「制裁」をチラつかせる米国の規制当局
一方、米国ではどうでしょう。2021年6月15日、米連邦取引委員会(FTC)の委員長に、米コロンビア大学准教授のリナ・カーン氏が就任しました。史上最年少の32歳、バイデン大統領が指名した、と報じられています。
カーン氏が注目されたのは2017年に発表された、アマゾン・ドット・コム(アマゾン)に対して反トラスト法(独占禁止法)の適用を主張した論文「Amazon’s Antitrust Paradox」です。
「カーン氏は、消費者利益とは単に低価格であること、だけでなく製品の品質、選択肢の多様さ、イノベーションを消費者に届けることにある、と論じています。とりわけ類似製品を、コストを度外視したような安値で提供して競合を追い出し、市場を占有してしまうアマゾンの略奪的価格設定(predatory pricing)は独占禁止法違反ではないか、と批判しています」(宮﨑)
FTCは日本の公正取引委員会に相当する組織。かねてよりメッセージアプリのWhatsAppやインスタグラムを買収したフェイスブックを提訴するなど、ビッグテックとの間で火花を散らしています。
「消費者やプライバシーを重視するカーン氏が委員長の座に座ることで、GAFAに対して厳しい姿勢で臨むFTCがさらに強い権限を発動するかもしれません」(宮﨑)
米国下院ではグーグルやアップルなどIT4社に対する規制を強化する反トラスト法の改正法案の審議がなされています。法案には、各社がITサービスを通じて集めたデータを他のサービスに持ち運びしやすくする、いわゆるデータポータビリティの義務化やデータの相互運用性(インターオペラビリティ)の推進が盛り込まれているようです。このデータポータビリティにおける「データ」の範囲を決めるのがFTCだと見られています。
「共同規制」を思い起こさせる英国当局の対応
英国の規制当局、競争・市場庁(CMA)は、グーグルが進めているChromeブラウザのサードパーティーCookieサポートを終了に待ったをかけた、と2021年6月に配信されたウェブニュースが報じています。CMAの主張は、唐突なサポート終了はデジタル市場における競争を歪ませる、というもので、両者は話し合いの場を持ったと見られます。
こうした指摘に対してグーグルは、W3Cで標準化が進められる機能を組み込むプライバシーサンドボックスへの移行を推奨し、それを利用する市場参加者に対する3つのコミットメントを発表しました。
- 話し合いとコラボレーションを進める
- グーグルの広告製品にデータのアドバンテージを与えない
- 自社に対するひいきはなし
という約束事を通じて、プライバシーサンドボックスによってサードパーティーCookieが代替されれば市場での公正な競争が実現できると主張しています。
「グーグルは、もしCMAがこれらのコミットメントを受け入れてくれた場合、英国のデジタル市場のみにおいてではなく、全世界でも適用すると意気込んでいます。この件に関してCMAが実施したパブコメに対して、グーグルとNDAを結んでいる企業にも遠慮なくコメントを投稿してほしい、グーグルはコメントに対して一切文句を付けない、というオープンなスタンスを前面に押し出しています」(宮崎)
日本政府が2021年4月に公表した「デジタル広告市場の競争評価」の最終報告では、共同規制に関する言及があります。共同規制とは、政府が法律で強く規制するのではなく、あくまで方向性を示すに止め、事業者によるイノベーションによって課題解決を促す、または当事者が参加する業界団体が自主的に具体的な対策を決めて、お互いそれに沿って行動する、という枠組みです。英国CMAの動きは、この共同規制を彷彿とさせる側面がありますが、グーグルにしてみるとうまくいけば『英国政府公認のプライバシーサンドボックス』と銘打って海外市場を席巻する戦略かもしれません。
巨大IT企業に対する日・米・英各国の対応、みなさんはどうご覧になりますか?