毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。
- 配信日:2023年4月6日
- タイトル:Sign in with Ethereum
- メインスピーカー:データサイン 代表取締役社長 太田祐一
- MC:ビジネスディベロッパー 宮崎洋史
イーサリアムのコミュニティが提案するサインインの標準仕様
Ethereum(イーサリアム)などの暗号資産やNFT(Non-Fungible Token、非代替性トークン)の取引経験がある方は、MetaMask(メタマスク)というクリプトウォレット(暗号資産用の財布)をご存じかもしれません。このMetaMaskの公式ツイッターが2023年3月24日、「Sign-In with Ethereum」に対応したことをツイートしました。Sign-In with Ethereumとは何でしょうか。また、どんなことが期待できるのでしょうか。ランチタイムトークで話題に取り上げました。
Sign-In with Ethereum(以下、SIWE)は、EIP-4361で提案、レビューされているユーザー認証・認可などの仕組みに関する仕様です。EIPは「Ethereum Improvement Proposals」の略称。今回のEIP-4361修正提案の目的は何でしょうか。
「簡単にまとめると、FacebookログインやGoogleログインなどのソーシャルログインを、非中央集権的なイーサリアムのウォレットアドレスで代替しましょう、というのが目的です」(データサイン 代表取締役社長 太田祐一)
サービス間の相互運用性を向上させるメリットも
イーサリアムのアカウントに割り振られた固有のウォレットアドレス(英数字からなるユーザーごとに異なる文字列)と、イーサリアムで規定されたメッセージ署名の仕様を組み合わせて用いると、あたかもCookieベースのウェブセッションやソーシャルログインのような環境が実現できます。つまり、アクセス権限が付与された(認可された)場合にのみ、当該アカウントに紐づくデータを提供する、という環境です。すでに多くのイーサリアムベースのアプリケーションやサービスで、このようなサインインの環境が実現されています。
SIWEでは、これをさらに発展させて、サインインというワークフローの標準化、既存サービスの横断的な相互運用性の向上、ウォレット開発者に対して、ユーザー体験(UX)を改善する、より信頼できるID署名要求の手段を提供することを意図しています。
SIWEは次のようなイメージで機能します。
- まず、サービス提供者(Relying Party:RP)はSIWEメッセージを発行し、メッセージ署名の扱いを定めた仕様(ERC-191)で定義された文字列をそのメッセージの先頭に付記します。
- 次に、ウォレットはユーザーに対して、SIWEメッセージに署名をするよう画面表示を通じて求めます。
- ユーザーが署名すると、RPはユーザーの署名の正当性を確認します。
- そしてRPは、ユーザーに関連するイーサリアムのウォレットアドレスや取引残高など、ブロックチェーンに書き込まれた情報をはじめ、ユーザーの許可が得られたデータにアクセスすることが可能になります。
プライバシーへの配慮は大丈夫なの?
「今後、web3に関連するアプリケーショ開発者にとってはSIWEへの対応が標準になっていくものと思われます。ユーザーにとっても利便性の向上が期待できそうです」(データサイン 代表取締役社長 太田祐一)
一方、現状のSIWEでは、異なるサービス提供者(RP)のサービスにサインインする際に同じ識別子が付与されるために、サービス間でのユーザーの特定(名寄せ)することができます。サービスを横断する利便性の高い機能をユーザーに提供ができる半面で、プライバシーへの配慮が指摘されています。
「そこで、たとえば、複数のサービスに同一のトークンを発行するパターンに加えて、サービスごとに異なるパラメーターを持たせるペアワイズ(pairwise)のようなアプローチが加味されるかもしれません」(太田)
「ほかにもEIP-4361には、今後の可能性としてDID(分散型アイデンティティ)およびVC(検証可能なクレデンシャル)といった、いわゆる自己主権型アイデンティティのサポートへの言及は注目したい点です。そして認証・認可の標準であるOpenID Connectにエンドユーザー自身による情報コントロール機能を組み合わせた、SIOPv2(Self-Issued OpenID Provider v2)のサポートへの可能性が触れられています。SIOPv2は欧州デジタルIDウォレットにおいても言及されている規格です」(太田)
中央集権型のソーシャルログインを代替する提案として、SIWEのアプローチには今後も注目したいと思います。