毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。

当記事で取り上げるのは以下の配信です。

  • 配信日:2022年6月23日
  • タイトル:Web5
  • 発表者:データサイン 代表取締役社長 太田祐一

web2+web3=web5

決済端末の提供で知られるSquare(スクウェア)を前身とするBlock, Inc.(ブロック)。ブロックの傘下で、非中央集権型(分散型)のオープンなウェブプラットフォームを開発するTBDが2022年6月10日に「Web5」を発表しました。こちらの話題をデータサイン 代表取締役社長 太田祐一が取り上げました。

「TBDのサイトを見るとWeb5(以下、web5)は、web2とweb3を足し合わせた概念または新しいマーケティング用語のようです。アイデンティティと個人データが第三者(巨大プラットフォーマー)の所有物と化している既存のウェブ(web2)の課題を解決するために、分散型アイデンティティとデータストレージを提供し、データとアイデンティティの所有権を個人に戻す、という趣旨のメッセージが記されています。一見すると、データサインの企業理念に通じるところがあります」(太田)

前出の決済会社、スクウェアは2009年に設立されました。創業者の1人、ジャック・ドーシー氏は元ツイッターのCEOでもあります。ドーシー氏はツイッターの投稿で、web3は非中央集権型と言われるものの実態はベンチャーキャピタルや機関投資家が利益を牛耳る場所だと猛批判したことでも知られています。

「ドーシー氏はビットコインの支持者で、イーサリアムをベースとするweb3には批判的立場です。web5によって、web3に対抗するビットコインをベースとした新たな分散型ウェブプラットフォームを作ろうとしているのかなと思います」(太田)

web5はTrusted Webと似ている?

web5に用いられている技術は大きく3つあります。

  1. DID(Decentralized ID:分散型ID)
  2. VC(Verifiable Credentials:検証可能な証明書)
  3. 認証機能やデータの受け渡し、分散型ストレージであるIPFSなどを包含するDWN(Decentralized Web Node:分散型ウェブノード)

です。DIDにはION(Identity Overlay Network、アイオン)を利用しています。IONはマイクロソフトが主体で開発するビットコインベースのDIDです。

web5の利用イメージですが、たとえばアリスさんという個人は、自分のデータを分散型ストレージ(IPFS)に保存し、自分専用のノードで管理します。そのデータをさまざまなサービス事業者(たとえば、ホテル、航空会社、レンタカー会社など)が利用したい場合は、アリスさんからデータへのアクセス権限を付与されなければなりません。つまり、アリスさんは自分のどのデータを誰に開示するかを自らコントロールすることができるというシナリオです。

個人をエンパワーできるウェブの実装形とは?

「web5の機能群を見ていると、データサインが開発したTrusted Webのプロトタイプと類似する部分があるといえます。ただ、前者はビットコインを使い、後者はイーサリアムを使うところで大きく異なっています」(太田)

Trusted Webとは、デジタル市場競争会議より2020年6月に発表された「デジタル市場競争に係る中期展望レポート」に記されている、今後のインターネットの構造が「目指すべき姿」です。実現に向けて検討を進めるTrusted Web推進協議会の座長を務めるのは慶應義塾大学の村井純教授です(※)。

「現状のウェブ、いわゆるweb2.0の世界では、ユーザー個人がデータのやりとりをする相手先を検証できる部分が少ないため、やむを得ず信頼(トラスト)しなければならない範囲が広くなってさまざまなリスクが大きくなります。一方、web3.0はユーザー自ら検証可能な部分が多くトラストする部分が少ない一方、トレードオフとして自己責任の範囲が大きくなります。一長一短ある両者の“いいとこ取り”をしようというのがTrusted Webのアプローチです」(太田)

一方、web5についてはそのガバナンスがどのようになっているか(非中央集権化されているか)など気になる点もありますが、分散型ウェブプラットフォームの1つの具体例を世に提示したことは確かです。こうした動きが、巨大プラットフォーマーなど一部の事業者にデータとアイデンティの所有権を寡占化される現状の見直しにつながるかどうか。今後も皆さんとチェックしていきたいと思います。

※データサインが提案した「オンラインマーケティングにおけるパーソナルデータの流通」は「Trusted Web の実現に向けたユースケース実証事業」の1つに採択されています。