毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。

  • 配信日:2020年8月27日 
  • タイトル: GAFA公聴会で語られたこと。語られなかったこと
  • 発表者:株式会社データサイン 宮崎洋史

オンライン市場の独占・寡占状態が及ぼす影響を明らかに

2020年7月29日、米反トラスト小委員会で、Google、Apple、Facebook、Amazonの各CEO(最高経営責任者)に米国下院議員がヒアリングする公聴会が開催されました。インターネット上に公開された公聴会の動画および書き起こしサイトを視聴したデータサインの宮崎洋史がその概要と感想を話しました。

米国の競争法である反トラスト法は、日本の独占禁止法にあたります。4社はそれぞれ主に検索サービス、スマートフォン、SNS、オンラインマーケットプレイスで圧倒的なシェアを有しています。この公聴会の目的は巨大な市場シェアを握る企業の存在が、イノベーションや起業、データプライバシー、自由かつ多様な個人の表現などに、どのような影響を与えているのか明らかにし、法制度でそれらの問題をどこまで解決できるのか見定めることにありました。

公聴会で質問を行ったのは、共和党と民主党の議員です。議員1人あたり5分の持ち時間を用いて、Googleのサンダー・ピチャイ氏、アマゾンのジェフ・ベゾス氏、Facebookのマーク・ザッカーバーグ氏、Appleのティム・クック氏という各社CEOと質疑応答を行いました。各社CEOはWeb会議で参加し、公聴会の参加者は、質疑応答以外ではCOVID-19対策のためマスクを着用しました。

議員の調査力に質問を受けたCEOが押される一幕も

休憩を含めて5時間半にわたる公聴会の質疑応答の内容は幅広いものでした。ランチタイムトークで宮崎が取り上げた話題のいくつかは次の通りです。

Googleに対するものでは、ローカルビジネスレビューサイトYelpに掲載されたレビューの盗用疑惑、インターネット広告配信インフラ会社DoubleClick買収時に表明した個人データの取り扱いに関する創業者のコミットメントの行方、アドテクベンダーを窮地に追い込むサードパーティクッキーの廃止について。Appleに対しては、App Storeの料率の高さ、自社アプリの優遇(スマホ利用時間を計測・表示するScreen Timeに競合他社製品を差し替えたとされる)。Facebookには、Instagramの買収について。Amazonについては、出店者のデータを用いた自社プロダクトの強化、などです。

民主党の下院議員バル・デミングズ(Val Demings)氏は、Google CEOのピチャイ氏に対して、2007年Googleが米国のDoubleClickを買収した当時のチーフ法務アドバイザーが米国上院反トラスト小委員会で、インターネットユーザーのブラウザ上での行動を個人と紐付けることが契約上不可能である、と証言したことを取り上げました。

「しかし、ピチャイ氏が2015年にGoogleのCEOに就任してまもない2016年に、この約束を反故にしたのではないか、と同議員が質問しました。ピチャイ氏はそれをおおむね認めます。さらに同議員はDoubleClick社の幹部から入手したというメールに、Googleの共同創業者であるラリー・ページ氏とセルゲイ・ブリン氏が当時、『ユーザーの行動をCookieで関連づけるクロスサイトトラッキングはしたくない、そんなことをすればプライバシーに関する避難を浴び、Googleのブランドが毀損する』と述べていたことを証拠に質問を畳み掛けます」(宮崎)

これに対してピチャイ氏は、ユーザーのプライバシーを守るために、ユーザーがパーソナライズ広告の利用を選択できる設定をすでに用意している、と切り返しました。

また民主党の議員ジョー・ネグズ(Joe Neguse)氏が、ザッカーバーグ氏に「かつてはMySpace、Friendster、GoogleのOrcutt、Mixi、Cyworld、Yahoo 360、AOLのBeboなどいろいろなSNSがあったが、2012年にはいずれの企業も存在しなくなった。まさに独占の結果ではないか」と指摘しました。

「ザッカーバーグ氏の返答は、『これまでにもっと多くの競合他社がおり、それぞれ異なる手法でサービスを提供していた』というものでした。米国下院議員の口からミクシー、という名前が出たので海外の動向を含めてよく調べているなと思いました」(宮崎)

他の議員からは、Facebookの2004年創業当時のプライバシーポリシーには、ユーザーのプライベートな情報を集めるためにCookieを利用しない、という記述があった、とザッカーバーグ氏に指摘する場面がありました。

小委員会では、この公聴会のために、1年近くにわたって多数の関係者へのインタビューの実施し、入手した内部資料を調査するなど準備を進めていたそうです。

語られなかったこと

「公聴会全体の論調は、現在オンライン市場における独占・寡占状態を前提としつつ、その中で、いかに健全な市場競争を促すか、規制を強化または緩和するのか、というものでした。とはいえ、利用者が不利益を被ったならば他のサービスに替える選択肢が存在することが重要であり、その不利益が大きいようであれば今後、解体される会社が出てくる可能性もあるだろう、という主旨の発言が議長から出ました」(宮崎)

利用者に選択肢を用意する、というのであれば、あるサービスの利用者が他社のサービスに自分のデータを移転(引っ越し)するデータポータビリティの提供、およびインターオペラビリティ(相互運用性)の実装も不可欠です。

「公聴会の書き起こしサイトを検索すると、データポータビリティ(the portability of user data)、インターオペラビリティ(interoperability)という用語は、共和党議員ケリー・アームストロング(Kelly Armstrong)氏の質問からそれぞれ1回ずつしか出てきません。これらは、この公聴会で語られなかったこととして記憶に残りました」(宮崎)

ただ今後、これらを推進するために米国政府が各社の協調を働きかけるなど、市場に介入する可能性がまったくありえない、とも言い切れないでしょう。米国政府の手綱さばきと企業側の対応に注目しています。