Trusted Web推進評議会が発表したホワイトペーパー

Trusted Web推進評議会が発表したホワイトペーパー

2021年5月13日

毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。

当記事で取り上げるのは以下の配信です。

  • 配信日:2021年3月11日 
  • タイトル: Trusted Web推進協議会が発表したホワイトペーパー
  • ゲストスピーカー:内閣官房 日本経済再生総合事務局参事官 佐野究一郎氏 / 早稲田大学 基幹理工学部情報理工学科 教授 佐古和恵氏

Trusted Webとは?

Trusted Web推進協議会が2021年3月12日付で「Trusted Web ホワイトペーパー ver1.0」を発表しました。「Trusted Web」とは何でしょうか。本ペーパーの作成に関わられた内閣官房の佐野究一郎氏と、同協議会タスクフォースのメンバーで早稲田大学の佐古和恵氏をゲストスピーカーにお招きし、お聞きしました。

Trusted Webとは、デジタル市場競争会議より2020年6月に発表された「デジタル市場競争に係る中期展望レポート」に記されている、今後のインターネットの構造が「目指すべき姿」です。

Trusted Web推進協議会とは、同レポートの提言を受けてDFFT(Data Free Flow with Trust)の具現化も視野に、2020年10月に設立された組織です。座長を務めるのは慶應義塾大学の村井純教授です。

同協議会発表のホワイトペーパーによると、トラストとは、「事実を確認しない状態で、相手先が期待したとおりに振る舞うと信じる度合い」と定義されています。

既存のインターネット構造が生み出した「ひずみ」

インターネットを通信基盤とし、ブラウザを利用して多様な情報にアクセスできるウェブが誕生した1990年代以降、広告モデルの登場によってサイバー空間の無償サービスが支えられる一方で、人々をなるべく長時間惹きつけることに注力するアテンション・エコノミーが発展しました。やがて人々の趣味嗜好を捉える大量のデータ収集・統合が進み、成長したプラットフォーム事業者がトラストを作り出す担い手となっていきます。ただ、その中で「様々な歪みが生じてきている」ことが本ペーパーでは指摘されています。

この「歪み」について佐野氏は、次のように述べました。

「プラットフォーム事業者によるデータの収集はユーザーが気づかないうちに行われたり、同意があってもユーザーが実質的に理解しているかどうか懸念がある中でデータ収集・分析が進められたりしています。ユーザーがデータへのアクセスを実効性ある形でコントロールできる仕組みが十分だとはいえません。また、双方の意思を反映した合意形成やその後の履行状況を検証する仕組みもない状況です。単一の主体がトラストを保証する状態ではなくて、マルチステークホルダーによってトラストが生み出されるガバナンスと運用を通じて価値が創出されることが重要です」(佐野氏)

「第三の道」へ通じる10の原則と4つの機能

本ペーパーで論じられるデジタル市場の目指すべき姿は、「一握りの巨大企業への依存」でも「監視社会」でもない第三の道による実現です。どのように実現していくのでしょうか。

1つの方策として提言されるのが、インターネットを自律分散協調型の通信・情報基盤へと進化させることです。それは、既存のインターネットの上に、一定のガバナンスや運用面での仕組みとそれを可能とするトラストの機能を重ね合わせること(オーバーレイ)により実現できると考えられています。

両氏は、現在のインターネットやウェブの仕組みでは、知らない者同志が信頼を確保するには制約があり、確認・検証(verify)できる領域が狭くなっていると指摘します。

「現在は、ユーザーは仲介するプラットフォーム事業者などを信頼せざるを得ず、確証はないけれど『エイヤ』と相手を全面的に信頼して行動している、という状況です。このように過度に『エイヤ』と踏ん切る気持ちをユーザーに強いることのない状況を目指したいと考えています」(佐古氏)

ただし、同協議会では、検証可能領域を増やし、盲目的にトラストする領域を小さくすることを検討していますが、これは単純にブロックチェーン技術などを使って、相手を信頼しなくてもなんでも実現できるということではない、と佐野氏と佐古氏は口を揃えます。

ロックインフリーでユーザーに選択肢が用意されることが大切

本ホワイトペーパーではTrusted Webの設計・運用にあたって考慮されるべき10の原則として、「持続可能な仕組み」「マルチステークホルダーによるガバナンス」「オープンネスと透明性」などが挙げられています。

また、アーキテクチャーの機能要件として4つ…

  • ユーザーがデータへのアクセスをコントロールでき(Identifier管理機能)、
  • 相手やデータに関する信頼を第三者によるレビューを含めて検証でき(Trustable Communication機能)、
  • 双方の意思を反映した動的な合意形成(Dynamic Consent機能)と
  • そのプロセスやその後の履行状況を検証できる(Trace機能)こと

が挙げられています。

「せっかく用意される検証可能な機能を、ユーザーが自ら積極的に活用して、『データを出すかどうか』『合意が履行されているかどうか』を判断する材料にしてほしい、ユーザー主体でトラストを生み出す状況にしたいと考えています」(佐古氏)

機能要件の1つである「Trustable(トラスタブル) Communication機能」が、「Trusted(トラステッド)」という表記ではないことにも注意した、と佐古氏は振り返ります。

「トラステッドは、信頼された、という受け身の意味ですが、そうではなくてユーザー自身が信頼するかどうかを判断できる、というユーザーの主体性が重要です。その意味を込めてTrustable Communicationにしました。」(佐古氏)

なお、Trustable Communication機能について本ホワイトペーパーには、「これまでW3Cで議論されているVerifiable Credentials(VC)」やその他の手段の応用が可能と考えられる」とありますが、具体的な実装技術には言及されていません。これについては「本ペーパーの立場が基本的にニュートラルであるため」(佐野氏)、「いろいろな技術をみたいと考えています」(佐古氏)とのことでした。

本ペーパーは、今後さらに内外のさまざまな関係者と協力・連携していくための「ディスカッションペーパー」という位置付けです。関係するステークホルダーとの協働を通じて、2030年までにインターネット全体での実装を目指しています。

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