毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。
- 配信日:2023年8月10日
- タイトル:Worldcoin, World ID
- メインスピーカー:データサイン 代表取締役社長 太田祐一
- MC:ビジネスディベロッパー 宮崎洋史
AIで儲けた収益をベーシックインカムで分配
2023年7月24日にサービスを本稼働したWorldcoin(ワールドコイン)は、世界中の誰もが経済的に自立可能なエコシステムを実現する、オープンソースのプロトコルやシステムを開発するプロジェクトです。こちらの話題をランチタイムトークで取り上げました。
「Worldcoinプロジェクトが目指すのは端的に言えばAIによって稼いだ資金を暗号資産(WLDトークン)で分配するUBI(Universal Basic Income)の仕組みづくりです。組織の運営ガバナンスや重要な意思決定にはトークンに投票権を割り当てる民主的な方法、いわゆるDAO(分散型自律組織)を掲げています。いずれも聞こえは良いですがそのやり方には、後述する批判や不満も出ています」(データサイン 代表取締役社長 太田祐一)
Worldcoinプロジェクトを支えているのは、Worldcoin Foundation(財団)です。設立者は、ChatGPTの開発元であるOpenAIのCEO、サム・アルトマン氏やWorldcoinプロトコルの開発などを行うTools for HumanityのCEO、アレックス・ブレニア氏です(なお、アルトマン氏はOpen AIのCEO職を2023年11月19日に解かれ、その後マイクロソフトに移籍と報じられました)。Worldcoinの公式サイトでは、AIの時代に生きるすべての人が恩恵を受ける場を確立することを謳っています。
ケニア政府は虹彩スキャンに待った
Worldcoinのエコシステムに参加するには、次の3つのステップを踏みます。
- World Appというアプリをスマートフォンなどにインストールし
- 分散型アイデンティティであるWorld IDを取得して
- 暗号資産(仮想通貨)であるワールドコイン・トークン(WLD)を受け取る
WLDを受け取る権利は、自分自身が(AIではなく)人間であると証明すれば得られます。ここで用いられるのが、虹彩を用いた生体認証です。眼球の黒目を構成する虹彩の紋様は、指紋と同じく1人ひとりに固有のパターンがあります。あらかじめ自分の虹彩をスキャンし、虹彩データのハッシュ値をWorld IDに紐づけます。WorldcoinではOrb(オーブ)と呼ばれる虹彩スキャナーを米国や香港、日本、韓国の主要都市に設置しています。
「虹彩の登録が完了してWorld IDとの連携が完了するとWorld App経由でWLDが獲得できます。私も試しに登録してきました」(太田)
しかし、この虹彩スキャンがケニアでは禁止となりました。収集された生体情報がセキュリティおよびデータ保護の面で問題があると同国の当局が判断したためです。
収集された自分のデータはどうなっている?
Worldcoinプロジェクトの公式サイトのFAQによるとWorldcoin財団および協力者のTools for Humanityは、生体情報を含むパーソナルデータをプロジェクトに従事しない者または支援を行っていない者に一切提供しておらず、今後も行わないと記されています。
データサインが提供するwebtru(ウェブトルゥー)を用いてWorld Appを調査してみると、サードパーティーのSDK(ソフトウェア開発キット)などにより30数カ所へのデータの送信が行われていることがわかりました。
この日のランチタイムトークではWorldcoinの生体認証のほかに、携帯電話番号を用いた認証やDAOの実効性に触れました。
「個人的には収集される自分のデータが、自分でコントロールができない状況に違和感を覚えます。エコシステムやビジネスのスケールを優先し、プライバシーの保護を軽視するようでは、多くの人々の支持を得られないのでは、と思いました」(太田)