毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。

  • 配信日:2020年10月29日 
  • タイトル: ニュースコメンタリー
  • コメンテーター:株式会社データサイン 代表取締役社長 太田祐一/株式会社データサイン ビジネスデベロッパー 宮崎洋史

Amazonが消費者の購買データを買い取るプログラムを開始

今回のランチタイムトークでは、近頃気になるデジタル広告関連のニュースをいくつか取り上げコメントします。コメントするのは、データサイン 代表取締役社長の太田祐一と、ビジネスデベロッパーの宮崎洋史です。

1本目のニュースは、2020年10月21日にtechcrunch.comが報じた「Amazon shopper Panel」という、Amazonが開始した新プログラムです。こちらは、Amazon以外の店舗や娯楽施設でショッピングをした時のレシートを1カ月間に10枚集め、写真に撮影してAmazonに送付する、またはメールに記載されたレシートデータを転送すると報酬が得られるものです。アンケートに答えるとさらに報酬がアップするそうです。プログラムへの参加は招待制とされています。

「レシート10枚送付すると報酬額は10ドルつまり、1000円強。消費者パネルを利用したプログラムは他にもありますが、相場から見るとずいぶんと報酬が高額な印象です」(宮崎)

記事によると、Amazonは広告事業への投資額が第1四半期に44%増(総額は39億ドル)。総額ではGoogle(同280億ドル)やFacebook(同174億ドル)に対して及ばないものの、伸び率(Google13%増、Facebook17%増)と比べて大きく伸長しています。この太っ腹(?)なプログラムからも、Amazonが広告戦略に積極的に投資していることが窺えます。

「ただ、情報銀行の観点でいうと、利用者の購買情報をお金で買い取るAmazonのプログラムと情報銀行の目指す理念は一致しません。情報銀行としては、Amazon以外のECサイトで購入したレシート情報を送ると、Amazonのサイトでショッピングをする時のレコメンドの質が向上する、という顧客体験の改善に役立てたほうがよいでしょうね」(太田)

米司法省、反トラスト法違反でGoogleを提訴

次の話題は、米国連邦司法省と11の州の司法長官が2020年10月20日、反トラスト法違反を理由にGoogleをワシントンDC連邦地方裁判所に提訴したというニュース。反トラスト法は、日本の独占禁止法に当たります。

司法省は、米国のインターネット検索市場で90%のシェアを占めるGoogleが反競争的な手段を用いてきたと指摘。その手段の中に、検索ブラウザの標準検索エンジンとしてGoogleを設定するように定めたAppleとの長期契約、が挙げられています。

「この契約においてGoogleはAppleに年間約1兆円規模を支払っていた、といわれます。つまりAppleにとって大口顧客のGoogleとの長期契約が解消すれば減収は避けられません。一方、Appleは、2020年秋に発表したiOS14などのバージョンから、IDFA(Identifier for Advertiser)を広告主側が取得する際に利用者の同意を必須にしました(注1)。この影響を大きく受けるのは、他でもなくGoogleです」(太田)

Googleに対しては、米国の他の州でも近く提訴に踏み切る可能性があると報じられています。Appleには、新たな収益源を模索する思惑がありそうです。

GPC(グローバル・プライバシー・コントロール)の「Do Not Sell」はうまくいく?

続いて取り上げる話題は、「GPC(Global Privacy Control)」です。こちらは、今年1月に発効したカリフォルニア州消費者プライバシー法(CCPA:California Consumer Privacy Act)、およびGDPR(EU一般データ保護規則)に求められる要件に沿って、ブラウザの利用者が、Webサーバー側に「Do Not Sell(データを販売しないで)」という内容の信号を送ることでWebサーバー側からのデータ取得を拒否できる、という仕組みです。このGPCシグナルを送れるブラウザやコミュニティには、braveやDuckDuckGo、mozillaなどがあり、この考え方に賛同するWebサイトには、Financial TimesやThe New York Timesなどが名を連ねています。

「Do Not Sellという文言から、Firefoxが開発した、Webサイトに向けて発信するトラッキング拒否(DNT:Do Not Track)機能を思い浮かべました。DNTは法律による強制力などがなかったこともあり、いまひとつ普及しませんでした」(太田)

さて、CCPAやGDPRへの対応を掲げるGPCのチャレンジは、どうなるでしょうか。

日本政府が整備に動き始めた「Trusted Web」

最後は、日本のデジタル市場に関する話題です。日本経済新聞によると、平井卓也デジタル改革相は2020年10月20日、行政のデジタル化を進めるだけでなく、民間の金融や交通など14分野と相互にデータをやりとりできるようにすると述べました。

「記事によると平井デジタル改革相は、『国民が必要なサービスを受けるときだけ自らの意思でデータを提供する仕組みにする』と個人情報の保護を強調したそうです。思わず、paspit(パスピット)のことかと思いました」(宮崎)

メガプラットフォーマーが中央集権的にデータを管理・利用する現行のインターネットの構造では、データがどのように使われるか、利用者からは見えません。このような信頼(trust)が欠如した状態では、パーソナルデータの利活用に懸念が生じます。そこでデータのアクセスのコントロールを本来帰属すべき、個人・法人が行い、データの活用から生じる価値をマネージできる仕組み「Trusted Web」の構築の必要性が注目されています。

政府は2019年9月の閣議でデジタル市場競争本部のもとに、デジタル市場競争会議を設置しました(注2)。同会議のもとに2020年6月に取りまとめた「中期展望レポート」に基づいて設立されたのが、Trusted Web推進協議会です。太田も同協議会メンバーの1人です。

「データを互いにやり取りする際の信頼が得られるように設計するには、PDS(Personal Data Store/Services)に連携する分散型ID(Decentralized Identity/Identifier)が必要になります。その上で、サービスを提供する側も本人の同意や認証レベルに基づくサービスを提供する。こうした世界観はまさに、データサインの設立目的と合致します」(太田)

本日のランチタイムトークのニュースコメンタリーはいかがだったでしょうか。皆さんのご興味のあるテーマがありましたら、ぜひご意見・ご要望をお寄せください。