毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。
- 配信日:2020年10月8日
- タイトル: プライバシーサンドボックス
- 発表者:株式会社データサイン 代表取締役社長 太田祐一
サードバーティーcookie用いるリタゲ広告を代替し、フィンガープリントを抑止
今日デジタル広告市場で大きなウェイトを占める、サードパーティーcookieを利用したリターゲティング広告(一度サイトを訪問した利用者に向けて広告を表示する手法)が、プライバシーに配慮したクロスサイトトラッキングの制限から廃止される方向にあります。広告エコシステムを守りつつ利用者のプライバシーを保護する方法はないのでしょうか。そうした中、サードパーティーcookieに変わる技術として注目されるのが、プライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)です。データサイン代表の太田祐一が解説しました。
「プライバシーサンドボックスは、Chromeブラウザを提供するGoogleが2019年8月に提案したアイディアで、将来的なサードパーティーcookie廃止の前提条件になるものです」(太田)
サイトの閲覧履歴情報などを保持するサードパーティーcookieは、利用者が許可していれば、広告配信事業者やGoogleなど第三者が参照することが可能です。利用者の行動に即した広告を表示するRTB(Real Time Bidding)の前提にある仕組みでした。
「しかし、2017年にSafariブラウザがプライバシーの観点からクロスサイトトラッキングを制限するとにわかに風向きが変わりました。とはいえ、標準化されていない独自の取り組みのため、(Cookieや端末IDを利用せず、利用者の同意を得なくても端末の解像度や応答時間を手掛かりに利用者を推定する)フィンガープリント横行の要因になっています。しかし、いきなり利用をすべて制限すれば、広告収入を得る事業者やメディアが打撃を受けます。そこで、サードパーティーcookieの代替として提唱されているのがプライバシーサンドボックスです」(太田)
ブラウザがデータを保持して広告表示の判断基準を決定する
プライバシーサンドボックスが、サードパーティーcookieを用いる広告と大きく異なる点は、どの広告を表示するかという判定に用いるデータを、広告ネットワークのサーバー側ではなく、ブラウザ側に保持すること、そして、ブラウザがどのような広告を表示するかの判断基準を決めるという点にあります。
現在、プライバシーサンドボックスは、Web技術の標準化団体W3CのImproving Web advertising business groupで標準化が進められています。
仕様を固める一環で、Googleが2020 年9月下旬に4つの実証実験を提案しました。その1つに「TURTLE DOVE」というプロジェクトがあります。
「この実証実験のポイントは、(自動車や靴など)訪問者の興味ある情報を広告主側が、サーバーではなく、利用者のブラウザに保存できるようにしていることです。これらのブラウザに保存された情報には、ウェブサイトや広告ネットワークはアクセスできません」(太田)
ブラウザは、共通する興味を持つ訪問者の情報をグループ化しています。そして、あるグループに属する訪問者(のブラウザ)が、広告枠を設けたWebサイトを閲覧すると複数のビッダー(bidder、すなわちDSPなどの広告主側のプラットフォーム)にそのことが通知され、ブラウザが(アクセスした媒体URLを含む)コンテキスト広告リクエストと、訪問者の(行動情報を含まない)興味に関するリクエストを、広告枠を取引するエクスチェンジに送信します。2つの広告リクエストには相関関係がないため紐付けることはできません。その状態で、最も良い条件を出した広告主が広告を表示する権利を買い付けることができます。
「実験では、相関関係のない広告リクエストをエクスチェンジ側に投げ、プライバシーサンドボックスをシミュレーションしたブラウザに広告を表示するオークションを行った結果、どれくらい広告主側が応札したか、などを評価する、とあります。ただ、実験の提案がなされたばかりの現時点の状況を考えると、評価が定まり仕様がまとまるのはまだ先でしょう。予定されていた2022年1月のサードパーティーcookie廃止には間に合わず、先延ばしされるのではないか、と考えています」(太田)
前述したW3CのImproving web advertising business groupでも、サードパーティーcookie廃止の延長を提言しています。
「しかし、フィンガープリントの抑止やプライバシーの観点からサードパーティーcookie廃止の流れそのものは変わらないでしょう」と太田は自身の見解を述べます。
ブラウザを提供するGoogleの力がさらに増す懸念も
ところで、プライバシーサンドボックスの情報、すなわちブラウザでグループ化された興味などに関するデータを、利用者はコントロールできるのでしょうか?
「githubなどに公開されたGoogleのドキュメントにはこの点が明示されていないようです。望ましいのは、『私が興味あるのは、広告で表示される自動車ではなく、靴の方だ』ということを、データ主体が自ら編集できることだと考えます」(太田)
ブラウザ側が、ある利用者の興味が「自動車」にあるのか「靴」にあるのか判定するアルゴリズムを有する、ということは、ブラウザを提供するGoogleがその発言力をデジタル広告市場でより強める、そういう見方もできます。異議を唱えるメンバーが立ち上げたコミュニティがすでに存在、活動しているのはその懸念の現れ。プライバシーサンドボックスが、どうなるのか。その着地点はまだ見えていません。