毎週木曜日に配信している「データサイン・ランチタイムトーク」の模様をレポートします。当記事で取り上げるのは以下の配信です。
- 配信日:2020年8月6日
- タイトル:担当記者にきく「スマホアプリ、いつのまにか位置情報提供」
- 発表者:朝日新聞 特別報道部 記者 牛尾梓氏
人気アプリの9割が何らかの位置情報を把握
2020年8月2日、朝日新聞朝刊に「スマホアプリ、いつの間にか位置情報提供 外部業者と共有、半数明示せず」と題する記事が掲載され、反響を集めました。朝日新聞が調査したところ、GoogleのAndroidOSで動作する人気アプリの約9割で、利用者の位置情報が業者側に共有されていることがわかりました。かつ、その半分以上は、共有していることを明らかにしていなかったそうです。この調査報道を担当した同社特別報道部記者の牛尾梓氏にお話を伺いました。
調査の対象は、Google Playダウンロード数上位100アプリ(2020年5月時点)で用いられる位置情報の取り扱いです。OSからスマホアプリに与えられている権限と、アプリを起動してから数分間に行う通信内容を調査しました。
「100アプリのうち88アプリが、ネットワークへの接続に用いるアクセスポイントを含む利用者の位置情報を外部の業者と共有していました。そのうち半分以上は、アプリが権限としてそのことを明示せずに位置情報を収集していました。広告会社やマーケティング会社が提供する、データ収集を行うSDK(ソフトウェア開発キット)の挙動については、それを利用するアプリ業者も十分に把握しきれていないのが現状です」と牛尾氏。ここでいう広告会社にはGoogleやFacebookなど広告事業で収益を得る企業が含まれます。
AndroidOS上で動くアプリが収集する位置情報には、GPSを併用して集める正確な位置情報(precise location)と、ネットワークのアクセスポイントなどから集めるおおよその位置情報(approximate location)があります。
「100アプリのうち41アプリは、スマホの利用者にいずれかの位置情報の取得について明示していました。取得を明示していない59アプリについても、通信をキャプチャできるツールを用いて確認したところ、おおよその位置情報を取得している、または、『取得するとプライバシーポリシーに明記している外部業者』との間で通信をしていたものが47ありました。その大半が無料ゲームやエンタメ系のアプリでした。つまり100アプリのうち、88アプリで何らかの位置情報を把握していることがわかりました」(牛尾氏)
利用者への説明は誰がするべきか?
この調査結果を踏まえて、牛尾氏がSDKを提供する広告会社やマーケティング会社に取材すると、位置情報データを活用するある大手マーケティング会社からは、SDKを提供したアプリから2千万台以上のスマホからの位置情報がDMP(Data Management Platform)に蓄積されているとのこと。さらにデータを分析することで、ある場所にどこからどんな人が来ているか、などの情報を得て、広告配信に生かしていることを明らかにしました。
「『ユーザー側もクーポンの配信などメリットがあるので、納得したうえで同意しているはず』という回答でした。一方、別の会社では『データは機械的に処理され、個人の特定はしていない。利用者の行動を予測して広告を出し、発見にあふれた生活にしたいだけ』としつつ、利用者の明確な同意が得られていないデータが一部含まれているのは事実と認めました」と牛尾氏は述べました。
アプリ業者側に取材すると、あるポータルアプリの広報担当は、GoogleやFacebookから無料で提供されるSDKの対価としてアプリで収集したデータが取られていると回答。また無料謎解きゲームアプリの代表は「無料アプリで収益を得るには広告が必要で、そのためにSDKを使っている。利用者への説明はSDKを提供する業者がすればよいのではないか」と回答したことを牛尾氏は指摘しました。
また、OSを提供するGoogle日本法人の広報担当は、取材に対し「アプリが利用者のデータを扱う場合、SDKが取得するデータを含むすべてについて、取り扱い方法を利用者に権限(※)で明らかにする必要がある」と回答。しかし、「権限での明示をアプリ業者に求めても、それを徹底するには難しさがあるのが実情」と牛尾氏に打ち明けたといいます。
※ Google Play内の各アプリ紹介ページに記載されいてる、そのアプリが持つ権限のこと
「自分のデータがどのように使われているか」考えるきっかけに
記事が掲載された後、読者の反応は予想以上の大きさでした。
「読者から、無料の代償は大きいと思った、プライバシーポリシーに無関心だったが危機感を持った、アプリをインストールさせる前にさまざまな注意書きを記しているが膨大過ぎて利用者には理解しづらい、政府や警察に情報提供がされることはないのか、といった意見やコメントが多数寄せられました」(牛尾氏)
ただし、記事掲載後に、自社サイトのプライバシーポリシーをすぐに見直すアプリ業者が現れたり、業界内でも昨今、データ流通ガイドラインの策定に言及したりするなど、自主的に透明性を高める動きが見受けられることを牛尾氏は指摘しました。
朝日新聞でも社内調査を実施し、法務部やデジタル系の技術を扱う部署と連携して、Web公開するプライバシーポリシーなどの見直しに着手したそうです。
「今回の調査報道の目的は、不安を煽ることではありません。自分のデータがどのように使われているのか興味を持ち、主体的に考えるきっかけにしてもらえれば」と牛尾氏。スマホのアプリやOSは位置情報以外にも、ダウンロードするアプリの種類やSNSなどの利用頻度といった情報を共有しています。Cookie規制が進むWebブラウザに比べて、端末を特定するIDなどを通じて利用者のデータを業者間で共有しやすい状態にあるスマートフォン。手放せない存在ですが、この機会に皆さんもいちど見直してみてはいかがでしょう。